この方式だと、常温では蒸気とならない100度以下の温水でもタービンを回すことが可能になるため、地熱資源の乏しい国を中心に普及が進み始めている。

 日本が豊かな資源を眠らせたままにしている間、世界では少ない資源を効率的に使おうという努力が続けられてきたわけである。

バイナリー発電で伸張著しいイスラエル

 日本が地熱発電の研究から手を引く15年ほど前にはほとんど見られなかったこのバイナリー発電は、今や世界の地熱発電の4分の1を占めるまでになり、さらにシェアを拡大しそうな勢いだ。

 この分野で急速に力を伸ばしているのがイスラエルの企業。弘前大学の村岡教授は「イスラエルのオーマットという会社が、日本にはない軍事技術の転用でバイナリー発電の圧力容器では世界市場をほぼ独占的に握っています」と言う。

 地熱発電のタービンでもかつては圧倒的に強かった日本メーカーの牙城を崩し、イスラエルが世界市場の24%を占めるまでに拡大してきた。優れたガスタービン技術などを持つ日本メーカーはまだ強いとはいえ、すでに世界シェアは50%を割り込んだ。

 このままの状態が続けば、日本が地熱発電の技術で世界一の座から滑り落ちるのも時間の問題だろう。兎と亀の寓話ではないが、資源も技術もあることに胡坐をかいてうとうとしている間に、日本は追い抜かれ、世界の景色が全く変わってしまっていたということになりかねない。産業育成という意味でも原発依存は大きな問題がある。

 しかし、3.11は少しずつではあるが日本にも変化をもたらし始めている。地熱発電の研究開発予算が復活したり、規制緩和されて企業の新規参入が容易になり始めたりしているのだ。

 例えば、電気事業法の一部が改正され、300キロワット未満のバイナリー発電に関しては、専任のボイラー・タービン技術者を置かなくてもよくなった。これは前から要望が出されていながら実現されなかった規制緩和策で、明らかに3.11の原発事故が後押ししたと言っていい。

 小さな規制緩和に見えるが、その効果は大きい。

 専任の技術者が不要になることで発電コストが大きく下がると見た企業が相次いでバイナリー発電に参入し始めたのだ。