ロシア企業は日本では馴染が薄い。ソニーやキヤノンといった類の、我々に身近なロシア製の商品ブランドが見当たらないからだろう。

 身近と言うなら毎日使っている都市ガスの1割弱はロシア産ではないか、と無理にこじつけても、ガスプロムというロシアのガス生産企業(公開会社としては世界最大の天然ガスの生産者)の名前がそれで広く知れわたっているわけでもない。

世界最大の原油生産企業

高給を求めて若い専門家が集まる石油工場 - ロシア

ロスネフチの石油精製工場〔AFPBB News

 だから、やはり公開会社として今度は世界最大の原油生産企業(年産約2億トン)がロシアに誕生した、と言われても、そのロスネフチという名前は日本ではまだ無名の戦士にも等しい。

 しかし、日本はこのロスネフチからこれまでも原油を買っているし、サハリンでは日本企業との合弁企業の相手先にもなっている。

 そして、大統領のウラジーミル・プーチンが推し進める東進政策の下で、ロスネフチはロシアの極東からLNG(液化天然ガス)や石油製品、石油化学製品も将来に向けて生産、輸出しようというのだから、日本にとってこれから付き合いが増える先であることは間違いあるまい。

 それだけではなく、この企業のこれまでを眺めると、ロシアの、あるいはプーチン大統領のエネルギー政策や、それがロシア内部の政治とどう絡むのかの一端が見えてくる。

 ロシア語でロスネフチの「ロス」はロシア、そして「ネフチ」は石油を意味するから、訳せば「ロシア石油」になる。いかにもロシアを代表する企業の名前に聞こえる。そう名づけられた20年ほど前のソ連崩壊の直後には、確かにその意味が込められていた。

 ソ連の時代は、社会主義体制の下で広大な領土内での石油の生産とその輸送を行うパイプライン事業を、石油工業省という1つの役所が全部統括していた。だが、1980年代の後半に国全体の組織が揺らぎ、誰も彼もが統制経済からの離脱を試み始めると、この役所も会社組織を思わせるような名前へ、とその看板を書き換える。

 ソ連崩壊後の1993年に、この疑似企業が100%政府所有の株式会社となり、ロスネフチと命名される(パイプライン事業はその前年に生産分野から分離され、やはり国営企業のトランスネフチとなった)。

 だが、こうした中央での動きよりも、末端の生産現場での“草の根”民営化の方が早く走り出していた。西シベリアでもウラル地方でも、組織の離脱・独立が中央からの抑えを飛び越えた流れになる。