気分を良くさせることもあれば、頭を痛くさせることもある。健康をもたらすこともあれば、体をむしばむこともある。人はそれを飲むことだけでなく、それに呑まれることもある・・・。人間にとってお酒とは、このように様々な二面性を持つ存在だ。

 お酒に含まれるアルコールが、人に“酔う”などの影響を与えることは、あまりによく知られていることだ。しかし、なぜアルコールが人にとって様々な二面性を持つのか、その仕組みや実態まで詳しくはあまり知られていない。

 日本での飲酒人口は7000万人とも言われる。多くの人にとって身近な物質「アルコール」に目を向けて、体への影響を整理しておくのもよさそうだ。

 そこで今回は、東京都目黒区にある洗足メンタルクリニックの重盛憲司氏に、アルコールの話を聞くことにした。重盛氏は、国立久里浜病院で長らくアルコール依存症などの治療に携わってきた。精神科医としてだけでなく、アルコール全般への見識が広くて深い。

 前篇では、まず、人がアルコールで酔うメカニズムや、上戸と下戸の違いといった基本的な話を聞いてみる。さらに、「牛乳を飲むと胃に膜ができて酔いにくくなる」といった、世間で流布しているアルコールをめぐる諸説の真相を聞いてみよう。

 後篇では、アルコールが体に与える良い影響と悪い影響を整理し、「適量をたしなむ」とはどういうことかを、改めて重盛氏とともに考えていきたい。

脳の内部へアルコールがしみ込んでいく

──そもそもの質問からします。なぜ、人はお酒を飲むと酔っぱらうのでしょうか?

重盛憲司氏(以下、敬称略) 2つの点から説明できます。

 1つは、お酒に含まれるアルコールによって、脳が麻痺するということです。

 お酒を飲んで体に入ったアルコールは、胃、小腸などで吸収されます。そして血管を通って肝臓で代謝されます。しかし、代謝されないアルコールは心臓へ行き、そして脳を含む全身に行きわたります。お酒を飲んで約10分もすれば、脳にアルコールが達します。

 脳では、アルコールが外側から内側へとしみ込んでいきます。脳の表面にあるのは理性を司る大脳皮質ですから、お酒を飲むとだんだん理性が取り払われていくわけです。感情が解き放たれ、“泣き上戸”や“笑い上戸”なども起きます。