5月下旬から調整に見舞われている円安と株高だが、例年相場で見られてきた“Sell in May and go away”(5月に売ってどこかへ行け)という格言を覆す水準に踏みとどまっている。特に円安は、夏場までこの環境が持続しそうな勢いである。
この現在の円安水準は果たして日本経済にメリットを与え続けるのであろうか? 多くのサラリーマンの実感としての可処分所得は増えているのであろうか?
答えは即座にイエスとは言い難い。表層的に円安は、日本のGDPの7割を占めると言われている内需産業の輸入採算性を悪化させ、実際に多くのサラリーマンの懐を潤す実感が伴っていないことの原因ともされている。
これは「Jカーブ効果」と言われ、当初は輸入採算の悪化による収益のもたつきに苦しむことになるが、いずれ通貨安で景気が回復し消費の波に乗って内需企業にも業績改善の恩恵が表れるというものだ。
特に景気波及効果任せの地方では、製造業・サービス業問わず景気回復の実感はかなり遅れることとなる。また、今回はJカーブ効果だけに期待できない事情もある。3.11以降の電力事情の変容による電力コストの増加と、日本企業のグローバル市場競争力の変容である。
換言すれば、産業コストの増加と収益性の低下というダブルパンチに見舞われている現状を救うのに、円安だけで効果を得ることができるか、という状況が心配されるのだ。
日本の「経営戦略」策定のために必要なこと
ここで必要とされるのは、企業の競争優位性の再定義と新しい市場構造に対応できる新しい強みの構築、それを後押しするシステムの設計である。
経営戦略の策定のためにはまず、外的な市場環境と内的な経営資源(ヒト・モノ・カネ)を明確化して、それらをどのように企業としての競争優位性に結び付けるかが肝要だ。その競争優位性の「競争」という言葉には、単に相手との争いに打ち勝つだけではなく、あらゆる環境下で比較優位を保つという意味合いがある。
そこで、企業や組織の競争優位性を分析するためのフレームワークである「SWOT(スウォット)分析」は経営戦略の古典中の古典だが、実は個別企業にとどまらず、現在の日本の国家経営を検討するうえで意外な効用がある。