橋下徹大阪市長が、沖縄のアメリカ海兵隊基地を訪問した際に、海兵隊側に対して「海兵隊の猛者の性的エネルギーを、風俗業を利用して合法的に解消しコントロールすべきである」と提案した。海兵隊司令官は凍りついた表情になり「海兵隊では禁止している」と答え、この件についての会話を打ち切ったという。
(橋下市長が「風俗業」をどのような英語で表現したのか定かではないが、 英語圏では通常「sex industry」と訳され、広義の売春業と見なされている)
ネバダ州の一部の郡を除くすべてのアメリカ諸州では、売春関連業は法律(州法)によって禁止されている。したがって、アメリカ国務省は、「決して売春は許さない」というアメリカ社会での基本的立場を示し、橋下氏が海兵隊に対して語った“暴言”に対しては「outrageous and offensive」という外交機関としてはめったに用いることがない程度に強い不快感を表明した。
日本独特のアメリカ海兵隊に対するイメージ
在沖縄海兵隊にしてみれば、風俗業を活用することなど考えも及ばない話である。緊急出動で戦場に赴く可能性が常に現実的である海兵隊員たちの性的エネルギーも含んだ心身健康状態の管理に様々な努力を払っている海兵隊にとっては、それは建前ではなく本音でもある。
いずれにせよ、橋下市長がこのような提案をした背景には、映画や小説などを通して得られたアメリカ海兵隊のイメージがあることは間違いないだろう。例えば先鋒部隊として突入する屈強な海兵隊員を屈強なるがゆえに荒くれ者と単純に理解したり、ブートキャンプ(新兵訓練コース)で教官(「DI」と呼ばれる)が強烈な卑語を連発して志願者を大声で恫喝しながら訓練する様子から乱暴者の集団と考えたりする。
加えて、反米軍・反日米同盟陣営の報道による歪曲されたアメリカ海兵隊の姿を念頭に置いて発したコメントであるように思われる。
(ちなみに、海兵隊員になるためのブートキャンプを無事終了できる各種基準は陸軍などよりも厳しく設定されている。その上、隊員になってからの訓練内容もよりハードであるため、一般論として海兵隊が屈強な部隊であるというのは正しいと言える。また、ブートキャンプでDIが卑語を連発したり大声で気合いを入れたりするのは、これまで一般社会で生活してきた若者に、これからはアメリカ最強部隊の一員となるために、これまでの“娑婆”での生活習慣をすべて洗い流して一からスタートさせるための、計算された精神的ショック技法である。実際に、DIは激しく罵倒はするが決して体罰は行わないし、一見しごきに見える身体訓練でも、医師を含む医療スタッフが常に監視し、志願者たちの体調には万全を期している。決して粗野な乱暴者を作り上げる訓練ではない)