前回、フォルクスワーゲンの新たなクルマづくり、すなわちパワーパッケージや装備類だけにとどまらず、車体骨格まで「モジュール化」に近づけた「MQB(モジュラー・トランスバース・マトリックス:横置きパワーパッケージ中核車種群のモジュール化)」と、その技術企画の根幹にある製造プロセス全体のリニューアルが意味するもの、そしてそれがまさに進行しつつある現場を見てきた話をお届けした。
しかし考えてみれば、それに対比すべき日本車の技術面の現状と、日本の自動車生産の現場の状況を把握していなければ、私が現地で「立ち遅れる日本自動車産業」に思いを巡らせたことの中身は伝わらない。これまでこのコラムで何度も取り上げ、語ってきたところも多いのだけれども、ここで一度要約しておこうと思う。
「古色蒼然」という印象のオーリス、クラウン
日本のクルマづくりの現状を知るための例として、最近現れた「新型車」の中から、まずオーリスとクラウンを取り上げてみる。
オーリスは、カローラ系列の中で欧州マーケットへの投入を前提にしたハッチバック形態のバリエーションモデル。つまり彼の地では乗用車マーケットの中核ゾーンに参入することになる。ゴルフはもちろん、オペル・アストラ、フォード・フォーカス、プジョー308、さらにはヒュンダイi30などが居並ぶ「激戦区」である。
クラウンについては改めて説明する必要もないとは思うが、ただ現状のトヨタ自動車の商品構成の中では日本と中国の2市場を対象にするモデルとなっている。日本ではFR(エンジンを車体前部に積み、後輪を駆動するレイアウト)のセダン群の中でマークXとマジェスタ、レクサス各車に挟まれるゾーンを受け持つ形だ。
この2車種の技術面を見ると、どちらも骨格、主な走行機能要素ともに「キャリーオーバー」である。つまり先代モデルと同じ設計を踏襲しつつ、内外観を新しくする手法のモデルチェンジである。もちろん、衝突安全に対する要求が厳しさを増すのに対応して、各種の衝突試験に対応する車体構造の強化などを織り込んだ設計はしている。
いつも書いているように、クルマの本質である「移動空間」としての資質の基本は、まず「人間をどう座らせて、それを包み込む空間を形作り、そこに走行機能要素をきっちりと配置する」という「パッケージング」に始まる。そして走らせる中で様々に現れる資質の「素性」を決めるのは、車体骨格がどう作られているかと、サスペンション、ステアリングなどの走行機能要素の内容である。それも表面的な理屈や数字だけではだめで、体感と設計の細部を結びつけ、様々に掘り下げて、次の製品の企画、設計、開発に反映する緻密なプロセスの循環が欠かせない。