2014年2月、ロシアのソチ市(グルジアとの国境に近い黒海沿岸の町。緯度は旭川と同じ)で冬季オリンピック大会が開かれる。
オリンピックに向けて東京都大田区の中小企業が夢を懸けているのがボブスレーだ。ボブスレーは1300メートルほどの氷のすべり台を小さなロケットのようなそりで滑走し、タイムを競い合う競技である。冬のオリンピックの人気種目の1つだ。
そりの最高速度は時速140キロメートルにもなる。選手の技量と共にそりの性能が競技の結果につながるため、ボブスレーのそりは激しい開発競争が繰り広げられている。ドイツはBMW、イタリアはフェラーリ、アメリカはNASA(米航空宇宙局)、イギリスは英空軍という具合にそれぞれに強力なスポンサーがいて、莫大な金をかけてそりを開発している。
しかし日本のチームは今まで乏しい資金の中で、ドイツの中古品のそりを譲ってもらって乗っていた。独自開発は全く行われていなかった。これでは強くなるはずもない。
そこで立ち上がったのがマテリアル(東京都大田区)の細貝淳一社長をはじめとする大田区の中小企業=昭和製作所、エース、大野精機等々の若手たちだ。ボブスレーの空白地帯に地域のものづくりの未来を見てとり、独自にチャレンジしてみようと旗を上げた。その名も「下町ボブスレーネットワークプロジェクト推進委員会」。細貝社長が委員長だ。
屈強な選手が乗り込んで戦う氷上のF1
氷上のF1とも呼ばれているボブスレーは、3種(男子2人乗り、男子4人乗り、女子2人乗り)の競技がある。
重さ200キログラム前後のそりを押して加速し、十分加速したところで、先頭の選手から順次乗り込む。そりは滑り台の中を滑ってゆく。
先頭の選手をパイロットと呼び、前を見ながらハンドルで操作する。他の選手は空気抵抗を減らすため、体を丸めて身を隠す。最後尾の選手はブレーカーと呼ばれ、ブレーキをかける係だが、レース中はブレーキをかけるとコースに傷をつけるため、ブレーキをかけるのはゴールインの後ということになる。1300メートルを60秒弱で駆け抜ける。
そりの重量は、2人乗り男子がそりと選手合計で390キログラム 4人乗りが630キログラムに制限されている。重ければ重いほど勢いが出るので、みな、制限ギリギリまで重くする。従って選手は屈強な体格の若者が多い。
パイロットはずんぐりとした短躯型、後ろに乗る選手は最初に加速力が必要なため、プロレスラーのような筋肉質・大型の選手が多い。例えば2人乗りの場合全体が390キログラムであるが、ソリの重量は200キログラム程度であるから、選手は平均95キログラムほどの重量になる。デカッ! 体重が足りないときには鉄の重りを載せて調節する。