4月15日、117回目を迎えた歴史あるボストン・マラソンのゴール近くで2度にわたり爆発が起きた。文化的雰囲気漂う街ボストンで事件が起きた衝撃は大きく、米国人以外も数多く詰めかける場で不特定多数がターゲットになったという事実も重いものだ。

新しいステージに入ったテロとの戦い

ボストン・マラソンで複数の爆発、3人死亡 100人超負傷

ボストン・マラソンでの爆発に動揺する参加者〔AFPBB News

 9.11同時多発テロ以来の米国での爆破テロ事件の標的となったのが、スポーツ大会という警備の比較的甘いソフトターゲットだったことは、世界中の人々の生活を攪乱し続けるテロとの戦いが新たなるステージに入ったことを感じさせる。

 2005年、ロンドンで3度目のオリンピックが開催されることが決まった翌日発生した同時爆弾テロでは、50人あまりが死亡。それから7年間、警備を最重要課題として準備が進められていったロンドン・オリンピックが無事終わってから1年も経たないうちの惨事である。

 国際マラソン大会がテロのターゲットとなり得るとの指摘は以前からあり、英国で物議をかもしたブラックコメディ映画『フォー・ライオンズ』(2010/日本未公開)の中でも、主人公たちがロンドン・マラソンを自爆テロのターゲットとしていた。

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 スポーツの国際大会で、テロというものを最初に認識させたのは、1972年9月のミュンヘン・オリンピックだった。

 開放的な大会づくりに努め、警備を最小限にとどめたことが災いし、パレスチナゲリラ「ブラック・セプテンバー」のメンバー8人がフェンスを乗り越え選手村に侵入。イスラエル選手団2人を殺害、イスラエルに収監されている200人あまりのパレスチナ人釈放を要求し、9人を人質として立てこもった。

 そして、人質と共にカイロへと飛びたたんと航空機へと向かう空港で銃撃戦となり、人質全員とテロリスト5人が死亡したのだった。

 かつて悲劇に見舞われた地ドイツで行われる「平和の祭典」に参加したはずのイスラエル人が、一転、再度の惨劇の主人公となってしまったのである。この事件の様子は、日本から市川崑監督も参加したミュンヘン・オリンピックの記録映画『時よとまれ君は美しい』(1973)の中でも見ることができる。

 イスラエル政府はすぐさま報復に出、首謀者のパレスチナ人11人の暗殺を計画した。そんなスティーブン・スピルバーグ監督作『ミュンヘン』(2005)にも描かれた情報機関モサドの行為が今度はパレスチナ人の怒りを買うという悪循環に陥り、パレスチナ問題は泥沼化していった。

 1977年3月、そのブラック・セプテンバーが満員のアメリカンフットボール競技場を襲おうとするフィクション『ブラック・サンデー』(1977)が米国で公開された。それは、空からの襲撃という、4半世紀後の近未来を予見するものでもあった。