仮に筆者が「21世紀、ロシア発展のベクトルは東方に向かう」と言っても、誰も信じないでしょう。しかし、もし一国の元首がそう発言したとしたら、事情は全く異なります。

 ロシアでは今、エネルギー分野において、地殻変動が起こりつつあります。

 現在、ロシア最大の石油会社は国営ロスネフチです。国営ロスネフチは10年前までは国内では中堅の石油会社に過ぎませんでしたが、ロシア最大の民間石油会社ユーコスの資産を実質的に乗っ取ることにより、ロシア最大の石油会社に成長しました。

 ウラジーミル・プーチン大統領最側近の1人、イーゴリ・セーチン前副首相(エネルギー管掌)は昨年5月に誕生したドミトリー・メドベージェフ内閣においては閣内に残らず、国営ロスネフチ社長に転出。そのセーチン社長が訪韓・訪中後の今年2月19日、日本を訪問したのです。

 ロシア紙や日系各紙報道に拠れば、翌20日、ロシア極東の大陸棚探鉱・開発におけるエネルギー協力案件にて、エネルギー関連の民間5社幹部と会談しました。

 ロシアでは現在、天然ガス輸出はロシア国営ガス会社たるガスプロム1社の独占事業となっています。ロシアの法律で、そう規定されているのです。一方、ロシア紙報道によれば、プーチン大統領は2月13日、LNG(液化天然ガス)輸出の自由化を閣僚に検討指示したと報じられています。

 ここで、疑問が湧きます。なぜ、ロシア発展のベクトルは東方に向かうのでしょうか?

 またなぜ、プーチン大統領はLNG輸出の自由化を閣僚に検討指示したのでしょうか?

 これこそまさに、これから始まるであろうプーチン大統領によるロシア・エネルギー政策の地殻変動の兆候にほかならないと言えましょう。

第3期第1回プーチン大統領年次教書/東方発展構想

 ロシアは今後、どのような対アジア・エネルギー戦略を展開するのでしょうか?

 ロシアのプーチン大統領は昨年5月、本人としては第3期目のロシア大統領に就任。その後、昨年12月12日に第3期目最初の大統領年次教書を発表しました。

 従来のプーチン大統領年次教書は発表文のみ掲載されていましたが、今回大統領府より公表された年次教書全文には、発言の一部が大文字で表記されております。ですから、その部分こそ、プーチン大統領が強調したかった内容ということになります。大文字文章は全部で21箇所あり、18番目が「ロシア東方発展構想」です。

 では、この東方発展構想の要旨を訳出したいと思います(次ページ、訳=筆者)。