中国の大気汚染問題。もっぱら北京がクローズアップされているが、他の都市においてもその問題は深刻だ。何しろこのスモッグは国土の7分の1を覆っているという。ここ上海も例外ではなく、市民の不安は増す一方である。

 とはいえ、上海市民が取り得る対策と言えば「外出をしない」「窓を開けない」ぐらいのことだ。マスク姿で歩いている人はほとんどない。「相手は空気。マスクを着用したところで無駄」(主婦)とすでに諦めている。

 中国では、日本メーカーの空気清浄機が売れているという。日本の環境省は、2030年に中国の省エネ・環境市場の規模は42兆円となり、2010年の試算の4倍に膨らむと見る。日本メーカーはこれを商機に結びつけたいと目論む。

 「PM2.5」関連商品だけでも日本の産業に10~20%増の収益をもたらすという予測もある。しかし、あまりにも大きな期待をかけると日本企業は足をすくわれてしまう。すでに中国紙は、「中国人の苦しみを儲けに変える日本企業」と批判の目を向ける。

欧米メーカーの熾烈な売り込みが日本を押しのける

 脱硫装置の設置などで日本メーカーが健闘しているが、いつハシゴを外されるか分からない。中国企業は、日中関係が悪化していくのは不可避だと見ているうえ、「日本の製品がなくても欧州がある」と居直っているためだ。

 欧米メーカーの中国への売り込みは熾烈さを極めている。中国の省エネ・環境ビジネスで独擅場を占めるという日本の目標は、決して簡単に実現できるものではない。

 中国では「第11次5カ年計画」から本格的な省エネルギー・環境改善に向けた取り組みが始まった。第12次5カ年計画ではさらに目標値が厳しくなった。今回の大気汚染問題もあり、地方政府や国有企業は目標達成するためにあの手この手を駆使しなければならない局面にある。

 そんな中国における環境ビジネスの特徴は、「B to B」ではなく「B to G (Business to Government)」にある。どんなに民間企業が営業攻勢をかけたところで、「上」を攻略しなければ水泡に帰す。「上」とは「中央政府から圧力がかかる地方政府」のことである。中国での環境ビジネスは中国政府、地方政府とタッグを組まない限り、前進不可能な領域なのである。

 欧米各国は、首脳陣が中国と“トップ商談”をすることで環境ビジネスを推進させているが、日本はそれができず、相当のハンデを抱えている。

 その代わり、日中間には日中両国の政府主導による「日中省エネルギー・環境総合フォーラム」という枠組みがある(主導しているのは経済産業省と中国国家発展改革委員会および中国商務部)。だが残念ながら、これがまたうまく機能していない(ダイヤモンドオンライン2010年11月掲載「色褪せつつある“戦略的互恵関係”のなか苦境に立たされる日本の省エネ・環境ビジネス」参照)。具体的案件を生み出すどころか「単なる記念撮影の場で終わっている」(経産省関係者)という指摘もある。日本企業はまさに自力で中国環境ビジネスを切り開かなければならない状況にある。