iPS細胞(人工多能性幹細胞)などを用いた再生医療を臨床応用する動きがますます活発化している。実験室レベルの基礎的な研究からさらに踏み込んで、患者への治療に実際に役立つよう実用化しようという流れだ。その時流に乗る形で、厚生労働省が再生医療の新たな規制強化策を打ち出し、省益の拡大を図っている。

 iPS細胞に代表される、体の様々な細胞のもととなって再生する「幹細胞」は、既存の医薬品を使った医療とは異なるレベルの変革をもたらす可能性がある。

ノーベル医学生理学賞、iPS細胞の京大・山中氏らに

京都大学の山中伸弥教授〔AFPBB News

 周知のように、山中伸弥教授の2012年のノーベル生理学医学賞受賞が大きな弾みとなり、日本のみならず世界的にも再生医療の臨床応用に大きな期待が寄せられている。

 2013年2月13日には、iPS細胞の臨床試験計画が、神戸市の理化学研究所、続いて先端医療センター病院の倫理委員会で承認され、3月に申請される厚生労働省での審査が承認されれば、正真正銘の世界初の患者への応用が始まることが報じられたばかりだ。

幹細胞ツーリズム

 その一方、iPS細胞とは別種の幹細胞(間葉系幹細胞)を用いた治療が、福岡市の新宿クリニック博多院で月500人にも上る韓国人患者に対し実施されていることが2012年12月に報道され問題となった。

 ソウルに拠点を置くバイオベンチャーRNLバイオ社を通じて、多くの患者が福岡に押し寄せた理由は、韓国内では正式な薬事承認を受けておらず実施を制限されている治療が、日本では明確な規制や罰則規定がないため、自由診療として実施可能な点にある(ヨミドクターRNLバイオ、『The Grace of Stem Cells』)。

 実は、再生医療の実用化は、韓国は日本を大きく凌駕していると言われている。2010年の報告では、製造販売承認を受けた再生医療製品は、韓国の12品目に対し日本はわずか1品目だけだ(2013年2月現在では日本は2品目)(経済産業研究所「再生医療の普及のあり方」、内閣府資料「再生医療産業化促進への課題」)。

 今回の福岡の事例の背景には、再生医療に対する韓国の一般国民の期待が、日本人以上に大きいこともあると筆者は考える。世界では間葉系幹細胞を使った臨床試験自体は250以上実施されており、有効性はともかく安全性についてはある程度のコンセンサスができつつある。

 しかし、安全性や有効性が証明されていないとされる研究段階の治療は、ごく一部の研究機関で、厳格なルールに基づいた臨床試験として実施されるため、大多数の患者は対象から除外されてしまう。

 今回の件には、韓国政府の自粛要請や数千万ウォンにも上る自己負担があろうとも、リスクを冒して治療効果が得られるかもしれない最先端の治療法を試したいという患者の強い希望が感じられる。