東北から北海道へ、冬の道を3200キロメートル余り、クルマを走らせてきた。いくつかのテーマを組み合わせた取材旅行だったのだが、今回はその中で「最も寒かった場所」の話をしよう。

 その場所とは北海道河東郡上士幌町糠平。以前も紹介したことがあるけれど、私がもう20年にわたって新しいクルマの寒冷地での特性と、氷雪路面での走りの資質を確認するために足を運ぶ、なじみの「試験エリア」だ。

「圧縮比14」エンジンの実力を寒冷地で検証

 今年ここに連れ出したのはマツダ「CX-5」。このコラムでもその登場直後に技術解説と試乗分析を紹介したが、ガソリン、ディーゼルともに「圧縮比14」の新世代エンジン、6速オートマチックトランスミッション(AT)、サスペンション、車体骨格など、マツダが中核車種群のために開発した基幹技術要素(「SKYACTIV」と総称する)を全面採用した最初のモデルである。

零下20度の夜を、凍りついた雪の駐車場で過ごして朝を迎えたマツダCX-5 XD。背後の宿の壁からぬかびら温泉の湯気が立ち上っている(筆者撮影、以下すべて)。

 今回のテストカーはその中でもディーゼルエンジンを搭載したグレード「XD」の4WDモデル。なぜこのクルマを寒冷地体験に「連れ出した」のか。それは、新しいディーゼルエンジンの圧縮比「14」が、「ディーゼルの常識破りに低い」ことにある。ここまで圧縮比を下げるとなると「寒さ対策」が技術的難関として立ちはだかる。

 これまでディーゼルエンジンの「常識」とされてきた圧縮比はもっと高い。それは、「極寒の中でもエンジンが確実に始動し、燃焼する」ようにするためだった。

 空気(などの気体)をギューッと押し縮めてゆくと温度が上がる。これを「断熱圧縮」という。そこでエンジンのシリンダー(作動室)の中に空気を吸い込み、ピストンの動きで作動室を押し縮める、すなわち圧縮すると圧力とともに温度も上昇する。そこに燃料を噴き込むと、飛散する燃料の液滴が気化して空気と混じり合い、一気に燃え広がる。その燃焼ガスの圧力がピストンを押し下げ、回転力を生み出す。これがディーゼルエンジンの基本原理。

 その圧縮比を下げる、つまりシリンダーの中でピストンが最も下がった位置にあって作動室が最大になっている状態(下死点)の容積と、ピストンが上昇して作動室が最小まで縮まっている状態(上死点)の容積の比を小さくすると、どうなるか。空気を押し縮めていって生ずる温度も下がる。

 普通の状況ならば圧縮比14でも問題なく着火・燃焼する。しかし寒さの中ではエンジンに吸い込んで圧縮する空気の温度も下がる。それを圧縮していって上死点で燃料の着火点まで温度が上がるかどうか。もちろん温度上昇が足りなければうまく燃えない。特に始動が難しい。エンジンが回りだした後も、その内部が暖まるまでは燃えきれなかった燃料が白煙となって排出される症状が出る。