バングラデシュの首都ダッカは、慢性的な大渋滞で悪名が高い。道路網の整備の遅れはさることながら、雑多な乗り物が無秩序に道路を埋め尽くしていることも、渋滞を引き起こす原因の1つだ。
10~15分の道のりを自転車代わりに乗せてくれるのが「リキシャ」だ。10分の道のりなら10タカ(1タカ=1円)で走る。天然ガスで走る「ベビータクシー」は、コガネムシのような丸く小さい車体で、渋滞の道路の隙間をスイスイとくぐり抜ける。
タクシーは高級車からオンボロ車までピンキリだ。エアコンが付いていないと車内は蒸し風呂状態、窓を開けて走れば、信号待ちで物乞いたちの手が何本も入ってくる。トラックの荷台にシートを渡した屋根付きの乗り物「ヒューマンホラル」は、10タカでだいぶ遠くまで行ける。スシ詰めの車内(=荷台)は、対面で男女が分かれて座る。
こうした様々な交通手段の中で、ホワイトカラーの日常の足となり、首都ダッカの主要な交通手段になっているのが「公共バス」だ。
だが、筆者は今回の取材でこのバスには乗らなかった。なぜならば、乗り方がよく分からなかったのだ。
まずバスに乗るにはチケットを購入しなければならない。チケットは主に路上にパラソルを広げる闇の売店で購入するのだが、利用者がニセモノを掴まされる上、釣り銭をもらえないというリスクが存在する。
チケットを買わなくてもバスに乗れないことはないが、運転手が釣り銭をよこさないというリスクを背負わなければならない。また、闇の売店は露店なので、雨が降れば“営業停止”ということも珍しくない。
バスチケット売り場の不便さを見て思いついた
さて、そんなダッカの国営バス会社を相手に、ICカードの普及に取り組んでいる日本人がいる。エヌ・ウェーブ代表取締役社長(本社:東京都)の矢萩章さんだ。筆者は当初、最貧国バングラデシュの首都ダッカにいきなり「ハイテク」を持ち込むことの意義がよく分からなかった。