ダッカでは多くの日本人に取材に協力していただいた。中でもとても印象に残っているのが、「人間がまるごと現地化しなければ」と話す中務佳世さんである。
MARICAインターナショナル(東京都)代表を務める中務さんの、“現場”に根差した視線は多くの啓示を与えてくれた。
中務さんは、約束したその日、筆者が宿泊するホテルのロビーまで迎えに来てくれた。部屋の電話が鳴り、彼女の来訪が告げられたので、あたふたと降りていってみると、ホテルの支配人と親しげに話す彼女がいた。
流暢なベンガル語を操る日本人女性が気に入ったのか、支配人は私たちにお茶を振る舞ってくれた。「マダムは私のゲストですから」と語る支配人には、どこか誇らしげなものすらあった(注:「マダム」は女性に対する呼称)。
「バングラデシュ人はとても人なつこい性格です」と中務さん。「バングラデシュ人にとって、家に遊びに来てもらうのはとてもうれしいことなんです。だから、ここで出会うバングラデシュ人からは、たいてい『食事に来い、田舎に遊びに来い』と誘われますね」
ベンガル語を話す日本人女性となれば、その人気ぶりも想像がつく。流暢なベンガル語はどこで身につけたのかと尋ねると、「青年海外協力隊の事前研修で」という答えが返ってきた。中務さんにとって、バングラデシュは2度目の滞在なのだ。
20年前は青年海外協力隊の一員としてバングラに
バングラデシュは良質な皮革の宝庫としても知られている。中務さんはそこにビジネスチャンスを見出した。バングラデシュの皮革と日本の市場を結びつけようと、日々奔走。バングラデシュの牛革で仕立て上げた紳士靴は、エービーシー・マートによって日本で販売されている。
中務さんはもともとファッションデザイナーであり、大阪で女性用の帽子づくりに取り組んでいた。初めてダッカを訪れたのは20年ほど前だ。20代の頃、JICA(国際協力機構)が派遣する青年海外協力隊として、縫製や刺繍の技術指導に当たった。