前回の小欄では、ロシアのアナトーリー・セルジュコフ国防相が国防省ぐるみの汚職で解任された件についてお伝えした。(敬称略)
では、誰がこの“家具屋”を失脚させたのだろうか。
これについては現時点で確定的なことは言えないが、敵が多い人物だっただけに容疑者も多い。まず考えられるのは軍の抵抗勢力だ。
あえて不倫を公にする形で逮捕
セルジュコフ(そして大統領のウラジミール・プーチン)が最終的な目標としていた、コンパクトで機動性の高い軍に対し、軍内部には依然として異論が強い。
特に陸軍は、幾度も外国の侵略に晒された経緯から、最悪の事態のために数百万人規模を動員し得るポテンシャルが必要だと考える傾向が強い。
実はセルジュコフ解任の直後、「女房役」であったニコライ・マカロフ参謀総長も解任されているが(ただし汚職事件とは無関係)、その後任となったワレーリー・ゲラシモフ大将(前中央軍管区司令官)もこうした保守派の1人ではないかと言われている。
また、セルジュコフはズプコフ第1副首相の娘と結婚しているが、夫婦仲が冷え込んでおり、同じアパートの下の階に住まわせていたエフゲニヤ・ワシリエワという女性と不倫関係にあったようだ。
しかも警察がワシリエワのアパートに踏み込んだとき、室内には「バスローブにスリッパ姿の」セルジュコフも一緒にいたと伝えられており、2人が一緒にいるタイミングを狙って(つまり不倫が公になるような形で)捜査が行われた可能性が高い。
この不倫によってセルジュコフは義父のズプコフから相当の怒りを買っていたことは確かなようだ。
ただ、そのインパクトについては意見が分かれる。プーチンがこの程度の家庭内不和で政権の重要人物を窮地に追い込むはずがない、という意見と、秩序を重んじるプーチン・ファミリーの中で不義理なことをするのは命取りだ、という意見との双方がある。
ただ、ワシリエワ本人は、汚職事件の全容を解明するうえでの鍵となる人物だ。