ニッケイ新聞 2012年10月20日
ブラジル出版界の最高権威「ジャブチ賞」(ブラジル書籍評議会主催)の今年度の受賞作品が18日夜に発表され、本の表紙、伝記、翻訳作品、ルポルタージュなど全29部門のうちの小説部門第1位に、日系三世のオスカール・ナカザト氏の『NIHONJIN』(=日本人、2011年、176頁、サライヴァ出版)が輝いた。
小説部門での日系人の受賞は初。同日付フォーリャ電子版など伯字メディアが報じた。
この作品は、戦前移民男性とその家族が経験する苦難に満ちた生活を描いた小説。
日本国民であることを誇りにしていた、1920年代に移住したイナバタ・ヒデオがコロノ生活の中でブラジルに適応できず、最初の妻を失い、2人の子供との間にも確執を抱えてしまう物語だ。
語り手は現代に生きるヒデオの孫にあたる人物。孫の目から見た祖父の変容と夢(帰国して故郷に錦を飾ること)が語られる。
2011年度の伯国で最も優れた小説作品にこの作品が選ばれたことは、伯国文学界で日系人の活躍が目立たない昨今では快挙であり、日本移民の歴史が広く社会に認知される新たなきっかけにもなりそうだ。
ナカザト氏はパラナ州出身。マリンガー州立大学を卒業後、サンパウロ州立大学で文学の修士、博士号を取得した。現在はパラナ連邦技術大学(UTFPR)のアプカラナ校で文学と言語学を教えている。
昨年発表された本作品は、同氏の中長編小説としては処女作。主に新人の作品を対象とする文学賞「ベンビラー賞」の第1回に応募し、1932の未発表作品の中から見事1位に輝いていた。
パラナ州クリチーバで発刊されている日本文学・芸術専門の季刊紙『MEMAI』のインタビューによれば、同氏は博士課程を履修中に、創作作品に出てくる日系人を調べた折、あまりにも少ないことに気づいたことが執筆のきっかけという。
それ以降、母親から聞いた祖父母に関するエピソードや、8歳まで日語とポ語を交えて地方(パ州フロレスタ市)で生活した頃の自分の記憶、膨大な調査結果をもとに、伝記ではなく創作にした。
本の裏表紙では、ベンビラー賞の審査員アナ・マリア・マルチンス氏による次のようなコメントが紹介されている。「(本で描かれている)日本移民の歴史は、ブラジル文学にはほとんど出てきていないテーマ。飾らない直接的な表現で、ルーツに関わらず人を感動させる小説」。
今年度は11月28日に受賞式が行われる。
伯国=ブラジル
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