不況が長期化する一方、財政赤字が積み上がって補正予算も組めない。こういう状況になると、中央銀行への政治的圧力が強まるのはどこの国も同じだ。

 シカゴ大学のラグラム・ラジャンは「中央銀行はロックスターのように人気を集めている」と言うが、日本では逆に日銀は「無能な官僚機構」として政治家のバッシングを受けている。

 しかし本当に日銀はできることをやっていないのだろうか?

日銀の外債購入は金融緩和ではない

 前原誠司経済財政担当相は、記者会見で「日銀の外債購入のために日銀法改正を検討する」という方針を語った。政権の方針なのか、それとも(いつものように)彼の個人的な意見なのかはっきりしないが、「日銀による外債購入は金融緩和の手段として取り得る」という彼の話は、問題を取り違えている。

 この外債購入という話は、日銀の国債購入にあまり効果がないことから、外債(特に米国債)を買うことでドル高(円安)にしようという話だ。これは為替レートを動かす効果はある。例えば日銀が数兆ドルの米国債を買えば、ドル高になることは間違いない。

 しかしこれは前原氏の言う「金融緩和」ではなく、為替介入である。現在の為替介入は財務省が行っているが、実際のオペレーションは日銀がやっているので、違いはそれを外為特別会計ではなく日銀勘定でやるだけだ。

 これは変動相場制では日常的に使う手段ではなく、為替の急激な変動を緩和するときに限って行うものだ。また日常的に行うことは、資金的にも不可能だ。東京外為市場だけでも1日に1兆ドル以上の資金が動いており、ドルを買い支えるには毎日、数兆円が必要である。

 それによって為替差損が発生したら一般会計から補填しなければならないので、これは財政政策である。こんな大ギャンブルを税金で行うことは、賢明な政策とは言えない。