MRIC by 医療ガバナンス学会 発行

 みなさん、「牛乳を飲むと、がんになりやすい」とか、「ホルモン注射で若返る」なんていう話を聞いたことがありますか?

 こんな話題、アメリカでもよく耳にします。今回は、この議論の真相に迫ります。「それにしても、どうしてこの2つの話題をいっしょにするの?」と不思議に思う方もいると思います。それは、「インスリン様成長因子1:insulin-like growth factor 1:IGF-1」という、共通のホルモンが鍵となっているからです。

 私は、アメリカのスーパーマーケットで、牛乳、ヨーグルトやバターなどの乳製品を買う時、「no artificial growth hormone」、「not treated with rBGH」という表示を探します。これは、「成長ホルモンを使用していない牛からの製品ですよ!」という意味です。

 現在、アメリカの牛の約20%に、遺伝子組み換え牛成長ホルモン(recombinant Bovine Growth Hormone: rBGH)が投与されています。rBGHを投与すると、乳牛の成長が早まり、乳量が約15~25%増加し、乳を出す期間も平均30日ほど長くなります。

 ただし、rBGHを注射した牛は、乳腺炎になりやすいため、抗生物質を投与しています。従って、牛乳に抗生物質や膿汁が混ざる可能性があります。さらに、rBGHを投与した牛から採れた牛乳にはIGF-1が非常に高レベルで含まれています。

 IGF-1は、細胞の成長や分裂の促進、細胞死を抑制し、私たちの健康維持や成長に非常に重要なホルモンです。

 しかし、IGF-1を過剰に摂取すると、異常な細胞増殖、すなわちがん化につながり、膀胱がん、前立腺がん、乳がん、大腸がんの発症リスクとの関与が指摘されています。

 牛乳中のIGF-1の体内への吸収のメカニズムや、がん細胞の増殖への関与は不明ですが、先進国で唯一のrBGH認可国であるアメリカでは、消費者の不安は高まっています。

 日本、EU、カナダ、オーストラリアなどでは、rBGHの使用を禁止しています。しかし残念なことは、rBGHの表示が義務付けられていないため、輸入された乳製品や牛肉の状況は分からないことです。

 実際、食生活の欧米化に伴い、私たちの病気の傾向が変化しています。私は、今後、この問題を慎重に考えていくべきだと思います。