2012年8月、火星へと降り立った探査機ローバー(愛称キュリオシティ)は、約2年にわたる岩石や土壌の調査を始めた。

 生命探査への期待も膨らむが、かつて「火星年代記」で火星の生命体を描き、この6月惜しくも他界した作家レイ・ブラッドベリにちなみ、キュリオシティの着陸地点は「ブラッドベリ・ランディング」と名づけられることになった。

人間の記憶を題材にしたトータル・リコール

 その「火星年代記」に先立ち、かつてH・G・ウェルズが「宇宙戦争」で、オーソン・ウェルズがそのラジオドラマ版で世界を虜にしていた「火星人」のイメージから、今や、VFX全盛時代に入り、その代表として思い浮かぶのが、アーノルド・シュワルツェネガー主演の1990年米国最大のヒット作『トータル・リコール』(1990)の植民地化された「レッド・プラネット」火星の姿である。

 そのリメイク『トータル・リコール』(2012)が、現在劇場公開中である。

 ただし、今回は火星は登場せず、荒れ果てた近未来の地球だけが舞台。中心となるプロットは変わらず、『ブレードランナー』(1982)『マイノリティ・レポート』(2002)などの原作者としても知られるフィリップ・K・ディックお得意の「記憶」(原作題名「追憶売ります」)。

 人工的に植えつけられた記憶と本来の記憶の狭間で揺れる男を描くアクション大作となっている。

 上塗りされた記憶により書き換えられた「今」を生きるこの映画の主人公にとって、過去の記憶は変えられているが、事実は変わらない。

 一方、タイムトラベルで過去の世界にまぎれ込んだことで、事実に影響を与えてしまい、結果「今」を変えてしまうのが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)シリーズ。

 過去が書き換わるたび、微妙に変化していく「今」の映像の芸の細かさが際立つ三部作だが、その一方で、意図せず変わってしまったシーンも少なからずある。