ニッケイ新聞 2012年6月22~26日

 日本食ブームと言われて久しい。高級なものからテマケリアといった手軽なものまで広がり、2006年にはブラジルの伝統料理を供するシュラスカリアの数を日本食レストランが超えた。名実共に「市民権」を得た格好だが、本場のものとはほど遠いのが現実。

 そんななか、醤油の老舗メーカー『キッコーマン』、日本で最大の店舗数を誇る牛丼チェーン店『すき家』、岩手の蔵元『南部美人』がブラジルを次世代の巨大マーケットと捉え、“正しい”日本の味を伝えようと奮闘している。それぞれの代表にブラジルゆえの難しさ、今後の展望などを語ってもらった。(構成・本紙編集部)

――シュラスカリアに寿司や刺身、醤油はあるのに肉の味付けに醤油を使わない。

シュラスカリアでの普及にも力を入れているが・・・

 1つは、まず今まで伝える側がちゃんと伝え切れてないという部分があります。先ほど触れましたけど、数字を見るとまだ寿司刺身の日本食の域を出てないレベル。

――でも「すき家」を見れば、牛肉に醤油の味が美味しいと思われている。

高山 少なくとも牛丼は醤油を使ってますよね。

――アメリカではBBQに醤油使う。テリヤキはみんな大好き。「すき家」も売れてる。何故シュラスコは・・・。

 それは複合的な文化の1つだと思います。シュラスコ、フェイジョアーダは数少ないブラジル独自の食文化で、割と保守的。実は試験的にシュラスカリアで醤油と香草に漬け込んだ肉を焼いて出してもらっている。評判はいいけど、オーナーは「でもこれはシュラスコじゃない」といい顔はしない。

――そこはアイデンティティの部分で、ブラジル文化を守るということ?

 それは一例ですが、そういうオーナーの考えが一般的であれば醤油は寿司・サラダコーナーのみ。肉は岩塩。

――ブラジル人たるがゆえに防塁を築きたいのかな。アメリカのテリヤキ普及と何が違うのか。

久慈 それ美味しいよね~。

高山 うちの照り焼きも結構人気ある。良く出ますよ。

久慈 今回実施したお酒の会でもブラジル人、みんな知ってた。「酒と照り焼き最高に合うよ」って言ったら、皆で奪い合ってた(笑)。

――食の大家、北大路魯山人は「牛肉に一番合うソースは醤油」が持論だったとか。それは日本人の味覚でしょうけど、ヨーロッパでもアメリカでも、牛肉&醤油のコンビは旨いって思われてるのに・・・すごい謎(笑)。

 森さんの言う通り、ブラジル文化を守る、潜在的な何かが働いているとしか思いようがない。

高山 変なとこで保守的なこだわりもある。ブラジルって本当にそういう意味では面白い。政治もそう。何か変な所で厳しくって、変な所でいい加減っていう。それと共通するんじゃないですかね。

(一同 笑い)

ゼンショー・ド・ブラジル(すき家)代表取締役社長 高山孝之(たかやま・たかし)
岡山県、57歳。1977年ニチメン株式会社(現双日)入社。以来食品部門の業務に従事。中国で2社、日本で2社、食品関連の合弁会社を設立し、その代表や役員として事業を軌道に乗せる。その後、外食産業向けの物流システム構築に従事。02年ニチメン㈱フーズ事業本部・本部長補佐、03年㈱なか卯入社、05年取締役、08年常務、09年代表取締役に就任。2010年7月㈱ゼンショー入社。同年11月から現職。

株式会社「南部美人」5代目蔵元、専務取締役 久慈浩介(くじ・こうすけ)
岩手県、40歳。東京農大醸造学科卒。「南部美人」5代目蔵元として酒造り全般を担当する。冬は蔵にこもって酒造りをし、オフシーズンの春夏は全国各地で日本酒の良さを伝える「南部美人ライブツアー」を開催。年に数回、全国の造り酒屋の仲間達と北米、欧州、ブラジル、香港、台湾などで酒の会やセミナーを開催、日本酒の普及に努める。

キッコーマン株式会社ブラジル駐在員事務所ディレクター 森和哉(もり・かずや)
福岡県、38歳。学生時代にオーストラリア一周、南北アメリカ西海岸縦断を旅行。1998年、キッコーマン株式会社入社。営業部などを経て06年本社海外事業部。世界各国グループ会社の販売統計管理や中国の模倣品対策等を担当後、07年から現職。