昔、「くれない族の反乱」というドラマがあった。「~してくれない」といつも他人に対して不平をもらしている主婦の生活をテーマにしたドラマだったが、最近、自衛隊に対しても「~してくれない」とぼやく話をよく聞く。

 憲法をはじめとする制約から、やりたくても「できない」ことが多々あるのは今さら言うまでもない。だが、そうした任務の本質的な話だけではなく、多様な「くれない」コールが出ているようなので、看過できない。

 確かに防衛省・自衛隊は、対外的に決して積極的に活動しているとは言えないところがある。それは、組織の性質上もあるが、もう1つの要因としては、任務の増大で人やお金のやりくりに非常に苦労している点もあるだろう。

 ただ、そうした実情を、事荒立てじで身内で片付けようとすれば、外には理解されず「やる気がないのか」などと批判されかねないし、これは現場で汗を流す自衛官にとって気の毒と言うよりほかない。

 なぜ、やりたくてもできないのか、その理由を説明し、その上で代替案も示しても悪くないだろうし、防衛省・自衛隊が硬直化していると思われない対応が求められる時代になっているのではないだろうか。

予算不足で搭載されない大型ヘリコプター

 しかし、そうした中でもこの事例については、ちょっと特殊なケースだ。6月29日の産経新聞に掲載された「南極観測の現場ピンチ・・・昭和基地、ヘリ不足で一時閉鎖も」というものである。

 南極観測はほぼ毎年、実施されており、今年は54次隊となるが、予算不足で物資輸送などに欠かせない「CH-101」大型ヘリコプターが搭載されない恐れがあり、そのためにこの事業そのものがままならない状況になっているということである(注:「CH-101」は文部科学省が調達し、海上自衛隊が運用してきた)。

 私はかつて『奇跡の船「宗谷」』(並木書房)というノンフィクションを上梓していることもあり、敗戦国のわが国が戦後10年で南極観測をスタートさせたことや、その後、一時の中断はあったもののなんとかして続けてきたことに心からエールを送る1人であるが、この南極観測事業が置かれた現在の困難が、自衛隊に原因があるかのように誤解されているのではないかと、やや気になっているのである。