ギリシャの財政赤字膨張・デフォルト懸念は、欧州全体の信用不安問題へと拡大。さらに、ドイツが単独で導入した空売り規制をいわば「触媒」にして、グローバルなリスクポジションの縮小が加速することにもなった。そうした流れが当面続きそうである。

 世界的な株価下落にかろうじて歯止めをかける役回りを演じているのが、モノとマネーの流れの両面で世界経済のコアとなっている米国の経済指標が、このところ総じてしっかり推移していることである。だが逆に言えば、このタイミングで米国の経済指標下振れが続くようだと、株価の下落圧力が一段と強まりかねないということでもある。実際、5月20日に発表された5月15日までの週の新規失業保険申請件数が、市場の事前予想に反して5週間ぶりに増加して47万1000件となったことに、米国の市場は敏感に反応していた。

 ガイトナー米財務長官は5月22日、欧州には現在いくつかの難題があることを認めつつも、「それらに対処する上で、われわれのポジションはより強固なものになっていると考える」とコメントしていた。だが、やはり心配は尽きないのだろう。24~25日の北京での米中戦略・経済対話の帰途、英国とドイツを訪問する予定を追加し、トリシェ欧州中央銀行(ECB)総裁やショイブレ独財務相との会談を設定した。米国では市場も政策当局も、「緩やかな景気回復」という経済のメインシナリオが崩れてしまうリスクの増大を、恐れているように見える。

 EUは国際通貨基金(IMF)と協調しつつ、3年間で総額1100億ユーロの対ギリシャ金融支援策を決定。さらに、南欧諸国への危機波及阻止を念頭に総額7500億ユーロの緊急融資制度の創設を決定した。さらにECBが、それまでタブー視されていたユーロ圏の国債買い入れに踏み切った。

 物事にはいったん足を踏み入れてしまうと後戻りできないということが、往々にしてある。市場の圧力に屈して後戻りすると、全てが壊れてしまいかねない。いまの欧州通貨統合は、まさにそれであろう。緊急支援措置の構築で時間を稼ぎつつ、通貨統合の制度的な欠陥をできるだけ修復する努力が行われつつある。

 そして、ドイツ人にもギリシャ人にも、国家エゴを乗り越えた「欧州人」としての意識が、強く求められている。その点で、ドイツ議会が5月21日にユーロ圏支援基金への最大1480億ユーロの拠出を承認したことは、1つの朗報である。

 ギリシャ経済の先行きについては、悲観的な論調が支配的となっており、将来の債務再編が欧州の金融システムを揺るがすことになるのではないかという指摘も少なくない。統一通貨ユーロについてもともと懐疑的な傾向がある英国の経済紙によるコメントの内容なども、そうしたムードに拍車を掛けている感がある。

 しかし、独仏が中心となって推進されてきた欧州通貨統合という歴史的な事業が崩壊するとまでは、筆者は予想していない。ギリシャ経済についても、確かに厳しい財政緊縮措置を耐え切った上で債務を返済していくのはナローパスではあるものの、悲観一辺倒になる必要まではないのではないかと考えている。それには、いくつかの理由がある。

(1)ユーロ安による恩恵がギリシャにも波及してくること

 財政危機問題は、当初のギリシャ一国の「財政緊縮すれども単独で通貨切り下げできず」から、ユーロ圏諸国が大規模な金融支援に乗り出すことで「危機ウイルスへの感染」を受け入れたことで、「各国が財政緊縮を行う中でユーロは切り下がる」状況へと変質したものと、筆者は受け止めている。ユーロ安は、輸出競争力が相対的に強いドイツへの経済的メリットが最も大きいと考えられ、ユーロ圏内の経済格差縮小にはつながらないものの、経済統合が強化されてきているだけに、ギリシャやスペイン、イタリアといった南欧諸国にも、直接・間接に、ユーロ安による経済的なメリットは及んでくるはずである。