黒塗りのリムジンが夜のマンハッタンを走る。どぎつい街のネオンがスモークガラスの上を流れてゆく。
リムジンが停車し、運転手が恭しく後部座席のドアを開く。
すると、イザベラ・ロッセリーニ演じる、高級エスコートクラブの女オーナーが現れる。
人波を縫うように足早に歩く女。
今まで女を追っていたカメラが、ずーっと引いて街の風景を大きく映し出すと、いたるところに韓国語の看板やネオンサインが見える。
マンハッタンから韓国への突然のトランジション。一瞬の戸惑い。いや、もちろんそれも狙いなのだ。
とにかく、女はさびれたビルのエントランスに入っていく。
階段を上がる女。その顔は紅潮して、何かに期待するように、何かを待ちこがれているかのように見える。
カメラは今度は、女の向かう部屋の中を映し始める。
薄暗い部屋の中で、テレビが発する光だけがけばけばしい。
ソウルは清涼里の風俗街、通称「588(オーパルパル)」のピンク色の照明の下、ボディーラインを強調したカラフルで露出の激しい衣装を身に纏った女たち(彼女たちはとても背が高くスタイルがいいように見えるが、時には20センチほども底上げした靴を履いているのだ)が、窓をコンコンコンコンと叩いて音を出しながら、「オッパ(おにいさん)!」と客引きをしている様子の映像が流れている。
映画ファンが見れば容易に気がつくかもしれない。国際的な映画祭では作品を出品するたびに喝采を受ける、韓国を代表する映画監督キム・ギドクの映画『悪い男』の一場面だ。
ベッドの上でそれを静かに観ている裸の男。彼が、僕の演じる人物だ。コリアンマフィア? 男娼? 留学中の財閥2世? 分からない。謎の人物。
部屋のドアが開く。
するとあの女が立っている。その目は欲望で潤んでいるように見える。
見つめ合う2人。
ベッドに上がる女。まるで小さな子供のように男にすがりつく。
その女の肩をやさしく抱いてやる男・・・。
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以上、アメリカの大手ケーブルテレビ局 Showtime が2005年に制作した幻のドラマ『Filthy Gorgeous』第1話(パイロット版)からの場面だ。