米国アリゾナ州に住む友人が今年9月から、テネシー大学の経営大学院(MBA)に進学することになったとの連絡を受けた。40歳を少し超えた米人男性である。
詳しく話を聞くと、普通のMBAではなくエグゼクティブMBA(EMBA)だという。過去数年、中高年を対象にした管理職向けEMBAは世界各地で開講ラッシュと言えるほど開設され、人気が出ている。
米企業の復活で見直されるMBA
米ハーバード大学やペンシルベニア大学などには以前から管理職を対象にしたEMBAが用意されていたが、近年になって英国やフィンランド、スペイン、シンガポール、韓国、もちろん日本でもEMBAが次々に開講され、出願者も増えている。
ただ筆者は当コラムで昨年8月、MBAの価値を疑問視する記事を記した(「MBAと経理屋が企業と国を衰退させる」)。
自動車業界をはじめとする米製造業が衰退した理由の1つとして、MBA出身者が財務諸表にこだわりすぎて利益追求に走り、製品の品質を低下させる流れを作ったという議論である。
過去1年、米国内にはそれに逆らうバックラッシュ(反動)があり、ゼネラル・モーターズ(GM)をはじめとする製造業は品質向上に力を入れ、復活し始めている。同時に、MBA悪者論が少しずつ影を潜め、特にEMBAが新たな注目を集めるようになった。
コーネル大学経営大学院のジョンソン校は、今や学生の約4割がEMBAに所属する。そこには生涯教育という概念も垣間見えるが、中高年になってから大学に戻って新しい知識と管理術を学ぶ環境が、大学と学生の両方に整い始めたことを意味する。
昔から、「いくつになっても学ぼうという姿勢が大事」などと言われるが、その実践が目の前にある。まして日本を含めた先進国では寿命の延びと、退職年齢の延長などから50歳になってもあと10年、いや20年間のキャリアが「待っている」と考える方が当たり前の時代に突入している。
ともすれば管理職という立場は、個人の潜在能力の成長に限界を感じ始める頃でもある。