前回の『新興国を目指す日本企業のための知恵袋』では、新興アジア諸国における「クロスボーダー仕事術」に必要な要素として、1.平常心、2.戦略、3.ローカライゼーション、4.カントリーリスクの把握を取り上げた。

 今回の後篇ではさらに5つの要素を挙げ、また、実際に新興アジア諸国で活躍するクロスボーダーな日本人ビジネスマンに共通する特性を解説する。

5.マーケットリサーチを疎かにするなかれ

 日本人ビジネスマンが新興アジアのマーケットを目指して営業開拓する場合、まず、事前に現地マーケットリサーチが必要となる。

 しかし、日本本社から出張して広域のマーケット調査を行ったとしても、往々にして「情報不足」という壁に突き当たる。例えば、インド、ベトナムなどを想定して共通する問題をまとめると次の通りであろう。

● 統計データの信頼性が低い

● 各種統計の大部分が公表されず、時折、当局がメディアを通じて統計データを発表する程度。新聞記事から断片的な統計データを入手できる場合もあるが、出所、定義、実数などが不明。粗データの入手ができないことが多いため、加工・分析することもできない

● 歴史的に業界団体の組織化率が低いため、社会において「業界データ」が蓄積されておらず、新規参入に際して業界マップや競合環境を把握することが難しい

● 未上場企業の個別企業データ・信用情報に係るインフラ制度が整備されていないため、地元同業者などの企業概況や信憑性のある財務データが入手できない

 現地マーケット調査を行う場合、まず、苦手意識を捨てて現地の公式統計、書籍あるいはウェブサイトに当たってみることが有益だ。これにより予想以上に統計データが入手できることもある。

 次に、「情報不足」の問題に対処するには、現地で手間をかけてヒアリング調査を続けることが必要だ。調査対象業界の市場規模の推移、シェア、市場構造、企業数(規模別、地域別)、主要企業の売上・利益・従業員数など、監督官庁にて入手可能なデータをチェックしたうえで、必要に応じて現場ヒアリングによる補足的な情報収集を行うといい。

インド向け自動車はクラクションを強化、アウディ

独自動車メーカーのアウディは、インド市場向けに強化した特製クラクションを提供している〔AFPBB News

 最近、中国、インドなどでは、日本商品はシェア争いで苦戦している。一方、欧米韓商品は「ボリュームゾーン」(中間所得者層)で競争力を発揮している。

 例えば、インドで爆発的に売れているノキア製携帯電話は、防塵加工、直射日光下でも読めるフード、小型ライト、ラジオ付き(カメラなし)だ。

 ノキアは、社員を農家に泊まり込ませ、農民の真のニーズと値ごろ感を掌握した後、デザインを行った。これは、かつての「日本流の現場型マーケットリサーチ」だ。