2011年の春、地盤調査や造成工事に着手した矢先、東日本大震災は起きた。その日もワイナリー建設の最終打ち合わせで連日連夜関係者と詰めているときだった。

 以来、震災のニュースがテレビから洪水のように毎日溢れ出した。ただ呆然と凄惨な映像を眺めている日々が続いたわりには、その全容の把握には時間がかかりそうだった。

ブドウの収穫前に完成させたかった醸造所

建設前の醸造所建設予定地で設計の最終確認をする

 食い入るように見ていたのは、翌月には醸造所の着工が迫っていたからでもあった。

 建設工事の期間に余裕はなかった。醸造所は地下2階地上1階の3階建ての建造物なので、基礎工事に時間がかかるのは設計段階から分かっていた。

 だから多少神経質になっていた。というのも是が非でもブドウの収穫前に完成させておきたかったからだ。

 リミットは2011年8月末。

 9月中旬に収穫時期を迎える八ヶ岳の自社農園"猫の足跡畑"では、これでもぎりぎりのスケジュールになる。というのも完成後に醸造設備の搬入、設置、試運転などを行う時間を逆算しなくてはならないからだ。

 私はなんとか2011年の仕込みを自らの醸造所で行いたいと強く思っていた。

 徐々に被害状況が明らかになってくると、ワイナリー建設にも影響があることがはっきりしてきた。

 それは捜索・復旧作業で建設機器・設備、資材、現場での作業員が被災地に集められたため醸造所の建設に必要なそれらが極端に不足するという事実だった。