去る3月26日、パリ・ソルボンヌの大広間で、ピエール・マリー・キュリー大学(理学、工学、医学部が所属するパリ第6大学)の名誉博士号授与式が開かれた。この日、栄誉を授与されたのは8人。その中には、日本人工学博士、所眞理雄氏の姿があった。
米MIT学長やノーベル賞学者と一緒に名誉博士号を授与される
慶応義塾大学教授を務め、カナダ・ウォータールー大学、米国のカーネギーメロン大学訪問助教授などを歴任した後、1988年にはソニーコンピュータサイエンス研究所を設立。現在はその社長の職にある。
今回の授与理由としては、コンピューターの世界での多大な功績に加えて、各専門分野の枠を超えた新しい科学研究の方法論として産み出した「オープンシステムサイエンス」、また、その実践の場とも言える研究所の功績が挙げられる。
残念ながら私には、氏の唱える「オープンシステムサイエンス」の何たるかを、ここでつまびらかに説明する知識も能力もないのだが、それがいかに意義深く、どのくらいのレベルの仕事であるのかは、この日同時に名誉博士号を授与された顔ぶれによって、私のような全くの門外漢にも想像ができる。
米マサチューセッツ工科大学のプレジデントであるスーザン・ホックフィールド氏、2007年にアル・ゴア氏とともにノーベル賞を受賞した気象研究グループを率いる米コロラド大学スーザン・ソロモン教授など、いずれも各分野の最高権威が所氏と並んでいるのである。
名誉博士たちはいずれも、分野ごとに違ったスタイルのコスチュームに身を包んで登場。会場の厳かなしつらえとも相まって、何やらタイムスリップしてしまったような気さえする。
ソルボンヌ大学があるカルチェラタン
このソルボンヌ大学のある一帯はカルチェラタンと呼ばれるが、そもそも中世の昔、ここにヨーロッパ最古の大学の1つができ、当時はラテン語がこの界隈の公用語であったことから、「ラテン語の界隈」ということでその名がついたと言われている。
それから数百年経っていることになるわけだが、セレモニーの光景はその昔を彷彿させるようであり、こういったオフィシャルな場面では、時代がいかに変わろうとも、いでたちも厳かさも恐らく中世からさほど変わらぬスタイルで脈々と受け継がれてきたのだろうことを想う時、歴史の重なりに圧倒されそうになる。
そして、かつてその存在さえヨーロッパ人たちの意識にほとんどなかったはるかかなたの国、日本から、学問の本場を自負する土地にこうして招聘される人物がいるということは、同邦の者として誇らしい限りである。
さて、授賞式の後のカクテルパーティーでは、シャンパングラスを手にした一流の学者たちのリラックスした表情が印象的だった。所氏も終始笑顔で、次から次へと彼を取り囲む人々に流暢な英語で応えていた。