銀行規制に関するオバマ米政権の「ボルカー提案」は、邦銀の耳に心地よい響きをもたらしている。大雑把な言い方をすれば、この提案は銀行に伝統的な商業銀行業務への回帰を促すもの。収益性の高い投資銀行業務を苦手としていた邦銀にとって、海外の銀行が当該業務の縮小を迫られる姿は、マラソンで先行ランナーが突然減速する光景のように見えるはずだ。
リーマン・ショック以降、吹き荒れ始めた海外での銀行バッシングは、かつて公的資本注入を受けた際に邦銀も経験した。しかし、外銀の抱えるリスクの大きさや経営陣の極端な高給は日本の金融界からは想像もつかない世界であり、その揺り戻しは強烈である。
今でも米国の大手投資銀行関係者は、プライベートでさえ社名が出るような形でパーティーを開くな、と指示を受けているそうだ。彼らの派手な生活が明るみになると、一般市民から暴力を振るわれたり、誹謗されたりする恐れが高いという。
ボーナスの額は邦銀マンとは桁2つ違うものであり、ドル建てで聞かされても円単位でしか感覚的に理解できない。それを規制する話が出た時、多くの邦銀関係者は「それ見たことか」と溜飲を下げた。
先進国の成長率低下、衰える商業銀行業務の収益力
しかし、その途方もない報酬を払うだけの収益力を海外の銀行が育んでいた事実も忘れてはならない。レバレッジを利かせた大きなリスクテイク、それが実現可能な市場、高収益の企業と投資家群・・・。邦銀から見れば夢のような世界は、証券化を通じて直接金融市場に精通した投資銀行業務部門が担うものである。
一方、邦銀のコア業務とは伝統的な預金・貸し出しに立脚した商業銀行業務が肥大化したもの。薄利多売を絵に描いたようなビジネスモデルだから、企業の成長率が低下し、名目金利が下がると低収益を余儀なくされる。