マット安川 今回は評論家・西村幸祐さんをお迎えしました。放送日はちょうど三島由紀夫の命日である憂国忌とあって、当時の檄文などをあらためて振り返りつつ、日本の現状が抱える問題をうかがいました。

三島由紀夫は40年後の日本を予見していた

「マット安川のずばり勝負」ゲスト:西村幸祐/前田せいめい撮影西村 幸祐(にしむら・こうゆう)氏
ジャーナリスト、作家。音楽雑誌編集などを経て、主にスポーツをテーマに作家、ジャーナリストとしての活動を開始。2002年の日韓ワールドカップ取材以降は拉致問題や歴史問題などにも分野を広げ、執筆活動を行っている。2011年4月「JAPANISM」を創刊、編集長を務める。(撮影:前田せいめい、以下同)

西村 三島由紀夫が自衛隊に決起を呼びかけ、割腹自殺したのは41年前の今日(11月25日)です。あの日は、当時としては恐ろしいまでの速さで情報が駆け巡りましたし、あらゆるメディアが特集を組んでこの事件を報道しました。ある意味で情報化社会の幕開けを告げる出来事でしたが、むろんただそれだけのことではありません。

 時の総理、佐藤栄作氏は「気が違ったとしか思えない」と言い、防衛庁長官だった中曽根康弘氏も否定的な発言をしました。それもあって「三島は文学者として優れているが、現実の政治についてはさほどではない」という認識が浸透し、今日に至りました。

 しかし、そうした見方は必ずしも正しくないことが、40年過ぎた今になっていよいよ明らかになってきたと思います。あの日三島がまいた檄文を読むほど、私は感嘆せざるをえません。彼は今の日本をそのまま言い当てています。

 「・・・われわれは戦後の日本が、経済的繁栄にうつつを抜かし、国の大本を忘れ、国民精神を失い、本を正さずして末に走り、その場しのぎと偽善に陥り、自ら魂の空白状態へ落ち込んでゆくのを見た。

 政治は矛盾の糊塗、自己の保身、権力欲、偽善にのみ捧げられ、国家百年の大計は外国に委ね、敗戦の汚辱は払拭されずにただごまかされ、日本人自ら日本の歴史と伝統を涜してゆくのを、歯噛みをしながら見ていなければならなかった・・・」

 この41年間、日本人が何一つ進歩していないことを、思い知らされませんか。

日本語で話すことすら非関税障壁になりかねないTPP

 TPPをめぐっては、政府がやっていることもめちゃくちゃですが、マスコミにも苦言を呈したいですね。この問題が俎上に上ったのは去年の秋なのに、この1年間、ほとんどまともな報道がなされてきませんでした。

 開国か鎖国かといった、見当違いなことばかりやっていた。最近になってやっと具体的な問題点を報道するようになりましたが、対応が遅すぎます。これは自由貿易が是か非かというような単純な問題ではないのです。