小嶋 「韓流の目的は映像を売り込むことでなく、韓国のイメージをアップすること。それによって現代自動車の車やサムスン電子の製品がよく売れ、ひいては韓国経済全体が向上していく」のだと。
そのために、コンテンツ事業には毎年国家予算から多額の援助が出ているそうです。人口も少ないゆえに、産業は国内だけでなく、海外に目を向ける以外に成長する道はない。韓国には、そうした「選択と集中」による明確な戦略性があるのです。
中山 日本と比較しても、韓国はアメリカとのFTA(自由貿易協定)などをスピーディに進めていますね。
小嶋 ちょうどWTO(世界貿易機関)会合の帰りに、アメリカ側の担当大使と話をする機会がありました。
当時はまだ米韓FTAの結論が出る前でしたが、その大使は私にこう言いました。「韓国の基幹産業である食料・農業分野が受ける打撃は日本よりはるかに大きい。しかし、彼らにはそれを乗り越えて、政治決着させる意志と力がある。
米韓FTAの結果をふまえて日本も進むべき方向性を定めなければ、自分たちが困ることになる」と。この話はたいへん勉強になりましたね。
日本の技術は高い国際競争力を持っている
中山 今、サムスン電子など韓国の大手メーカーは、日本の大企業を足しても追いつけないほどの規模に成長しています。この状況についてどう思いますか?
小嶋 国民の利益を生み、経済成長していくための「基礎体力」として、国全体で筋肉質な組織をつくることは大切だと思います。
しかし、それだけで経済成長ができるわけではありません。日本の国力を向上させるためには、別次元で新産業を育成するシステムづくりが必要ではないでしょうか。
中山 新産業といえば、東大阪発の人工衛星「まいど1号」の提唱企業であるアオキは、米国ボーイング社が認定する航空機技術を持っています。このように、日本には世界に誇る技術力がありますから、国際競争に晒されたとしても十分に闘えると思うのですが。
小嶋 そういう企業はたくさんあります。元気がないといわれる日本の繊維業界にも高い競争力を持った企業があります。例えば、和歌山県に、ニットの編み機製造で世界シェア60%以上を占めるメーカーがある。
このメーカーが世界トップシェアを誇る理由は、ふつうの機械では再現できない高度な匠の技と、国内最先端のCGをマッチングしている点にあります。PC上でニットのデザインをシミュレーションし、実際の着心地や風合いまでもが画面で確認できるのです。