仮定の話であるが、「外国で武器の使用を伴う暴動が発生し、在留邦人の一刻も早い引き揚げが問題になっている。国境は閉鎖され、空路を使用した行動が唯一の方法である。政府は航空会社に打診したが、航空機の安全が確保されないという理由で拒否された」という状況になった時、日本政府はどんな策を取るのであろうか。そして、それは国民が期待しているものなのであろうか。
邦人輸送という任務
自衛隊には邦人輸送という任務がある。
自衛隊法に述べられている要旨は「外国における災害、騒乱その他の緊急事態に際して生命または身体の保護を要する邦人の輸送を行うことができる」ということである。
一見、自衛隊機で救出できそうであるが、決めつけるには続きを読まなければならない。その前に、そのような事態があったのか、どのような事態で、どの様に対処したのか、二、三の例を挙げてみる。
・1985年、イラン・イラク戦争時
イランは日時を決めて、それ以降上空を飛行する航空機は警告なく撃墜すると宣言した。テヘランに残された邦人216人の一日も早い離脱が必要であった。日本政府は民間航空会社に臨時便の要請をしたが、危険であるという理由による組合の反対により実現しなかった。日本人仲介者の努力により、トルコ政府の承認の下、トルコ航空が特別機を派出、救出した。
・1997年、アルバニアにおいて政府の失政に端を発した治安の急速悪化により、在アルバニア外国人の生命が危機に陥った
報道によれば、銃撃戦のある状況下ドイツ空軍機により邦人は救出された。
・1997年、カンボジアにおいて2大政党系軍が衝突、銃撃戦になった
日本人を含む多くの外国人が国外に避難した。その中には440人の邦人のタイ軍用機による救出を含む。日本政府は邦人輸送準備のため、タイのウタパオ海軍基地に航空自衛隊機3機を待機させたが、情勢の安定化に伴い撤収した。
・1998年、インドネシアで暴動発生
5000人近い邦人の多くは、日本政府がチャーターした航空機や民間の臨時便等により国外に退避した。邦人救出に備え、政府は海上保安庁のヘリコプター搭載巡視艇及び自衛隊機をシンガポールに待機させたが、暴動が沈静化したため、撤収した。