「家族ですか? サカエにいます」と言われてどこか分からなかった。「どうぞうちに来てください。避難先を見てください」。そう促されて車に乗った。栄町かな。市の中心によくある名前だから、米沢の中心部だろうか。そんなことを考えた。

 前回に続いて、福島県南相馬市から山形県へ避難生活を続けている人を訪ねる。渡辺理明さん(40歳)とは、前回に訪問した南相馬市市民の避難先である米沢のホテルで知り合った。私が取材に来ていると聞いて、興味を持ってくれたのだ。自分の話も聞いてくれ、うちに来てくれ、と誘ってくれた。

 もう日が暮れていた。夕食の時間でもある。こんなに遅くから、ご家族にご迷惑じゃないですか。私はためらった。

 「いやいや! ウチの家族は夜の来客には慣れてますから! どうぞ寄ってください! どうぞどうぞ!」

 でっかい声だ。そしてコロコロした人懐こい笑顔。いい人そうだなあ、と思う。言葉は社交辞令ではなさそうだ。

 じゃあ、お言葉に甘えて、と車に乗せてもらったら、高速道路に上がって、どんどん米沢から遠ざかった。約1時間。山形市を後ろに過ぎ、着いたところは寒河江(さがえ)市だった。福島市から2時間、南相馬市からだと3時間以上かかる。故郷からこんなに遠いところに、と呆然とした。

ホテルの和室1部屋に5人の家族

 夜道を走って車が滑り込んだのは「シンフォニーホテル」という文字が見える温泉地の宿だった。駐車場に福島ナンバーの車が並んでいる。ここも避難した人たちの「仮住まい」に使われているのだ。

 薄暗い廊下を歩く。宴会場があり、和室が並んでいる。清潔ではあるが、まったく平凡な温泉宿だ。ドアのすき間から明かりが漏れ、テレビの音と家族の話し声が聞こえている。行楽シーズンで満員の温泉旅館のようだが、違う。やはり米沢のホテルと同じように、廊下に整理ボックスや靴箱が並び、物置のようになっている。

 渡辺さんは、ふすまを開けて「ただいまー」と中に入る。「おかえり」と声がする。私は足が止まった。部屋は10畳ほどだろうか。窓沿いに板の間がある平凡な和室に、ふとんが敷き詰められていた。洗濯物が下がっている。奥さんらしい女性が窓辺の椅子に座り、男の子がふとんに腹ばいになってテレビを見ていた。 

 「いらっしゃい」「こんばんは」。顔を上げた2人と目が合った。