中国の「真珠の首飾り」戦略をご存じだろうか。大手全国紙によれば、「インド洋沿岸諸国で寄港地などを確保しシーレーン防衛強化を狙う中国の戦略。中国はミャンマー、スリランカ、パキスタンなどの港湾建設などに関与している。
地図で結ぶと首飾りのように見えることから、米国が名付けた」のだそうだ。
英語では「String of Pearls」。初めて報じたのは2005年1月17日付ワシントン・タイムズ紙。
中国がそのエネルギー権益を守るため、南シナ海から中東に至るシーレーンに沿って各国と戦略的な関係を構築し、各地で海軍基地を確保する「真珠の首飾り」戦略を採用しつつあるという内容だった。
爾来この言葉は独り歩きを始め、南シナ海からインド洋に至る中国海軍力の増強のみならず、中国の対インド包囲網の象徴としても使われるようになった。
この「真珠の首飾り」についてはJBPressでも既に取り上げられているが、今回はその実像と虚像につき改めて検証してみたい。
なぜ「真珠」なのか
冒頭ご説明した通り、「String of Pearls」は中国人民解放軍海軍の用語ではない。新華社系の雑誌「環球」電子版も2年ほど前、「外国メディアは“中国の真珠の首飾り戦略”を派手に報道している」と題する評論を掲載し、西側の「中国外洋海軍脅威論」を強く戒めていた。
ご紹介したワシントン・タイムズ記事によれば、「String of Pearls」なる語は、国防総省ネットアセスメント室(Office of Net Assessment)が2005年国防コンサルタントBooz-Allen-Hamiltonに外部委託した部内報告書「Energy Futures in Asia」の中で初めて使われたそうである。
しかし、筆者が知る限り、当時の「ブーズ・アレン」にそんな気の利いた輩がいたとは思えない。
恐らく本当の名付け親はネットアセスメント室の切れ者の1人ではないか。「ネットアセスメント」と言えば、知る人ぞ知る米国防総省内で最も知的レベルの高い組織だ。
この中長期予測に基づく戦略立案を専門とする優秀な頭脳集団を率いるのは、今や伝説に近い本年81歳のアンディ・マーシャル室長である。