今年は「ソブリンリスクの年」だと言われることが少なくない。確かに、金融危機後の世界経済フリーフォール状態を食い止めるために、各国政府は財政政策を大規模に活用し、大幅な財政赤字に直面することになった。ギリシャのように、債券のみならず為替市場でも財政状況が材料視されている国もある。

 今年に持ち越された世界経済の「宿題」の1つに、景気回復と財政再建の両立という難しい課題がある。多額の国債の消化を海外マネーに依存せざるを得ない国では、長期金利の水準に財政面のリスクプレミアムが大きく上乗せされたり、通貨が売り込まれたりする場面が出てくるとは、筆者も考えている。しかし、冷静に考えてみると、各国の財政当局が今年は無為無策のままとは考えにくい。海外投資家を含む市場の信認を維持すべく、あるいは自国民に安心感を与えるべく、財政事情の改善に向けた動きを各国政府が断続的に打ち出してくることもまた、しっかり予想しておくべきだろう。

 最近のニュースを見ていると、財政事情の若干の改善あるいはさらなる悪化の抑止に結びつき得る話が、欧米でいくつか出てきている。ここでは、一定の注意を喚起しておく意味で、数は多くないものの、それらの動きを指摘しておきたい。

(1)米国

◆主要金融機関に特別増税を行う方針をオバマ大統領が明らかにしたこと。

◆7870億ドルの景気対策は未実行部分が多く、大規模な追加対策は考えにくいこと。

~ 金融市場・金融システム安定化に向けて米政府が使った公的資金の損失を穴埋めする(国民負担を回避する)ため、主要金融機関から「金融危機責任手数料(Financial Crisis Responsibility Fee)」と呼ばれる実質的な特別税を徴収する制度を導入することを、オバマ大統領が明らかにした。現時点の公的資金損失見込み額は1170億ドルで、これが減らない場合には12年間、損失額が900億ドルまで減る場合には10年間、特別税が徴収される。金融機関を税金で救ったことに対する米国民の不満の「ガス抜き」を狙うと同時に、財政赤字を少しでも圧縮しようとする措置である。

~ 米大統領経済諮問委員会(CEA)が1月13日に公表した、昨年成立した総額7870億ドルの景気対策についての四半期報告によると、昨年10-12月期末までに歳出増と減税の形で2633億ドルが実行に移された。このほか、1497億ドルの債務を米政府が負ったものの、支出はまだ行われていない状況。両者の合計は4130億ドル。すなわち、7870億ドルのうち3740億ドル(全体の5割弱)が、今年に入ってから景気を下支えしてくるということである。おそらく1990年代日本の大型経済対策の失敗を教訓に、オバマ政権は財政出動ペースで極端なアップダウンをつくらないよう配慮しており、各四半期で平準的に財政の効果が出てくるようになっている。昨年後半、景気対策のうち未発動部分がまだ大きいことを理由に、オバマ大統領やガイトナー財務長官らは、大規模な追加対策策定に消極的な姿勢を維持した(実際には過剰供給で不安定化した米国債市場への懸念もあったことは想像に難くない)。現時点でも、追加対策の必要性を否定するロジックは、十分成り立つと考えられる。