この回は東アジア共同体構想を題材に、鳩山由紀夫民主党政権はこの1年で何が問われるのかを解き明かしたい。
鳩山政権、「脱米」の火消しには成功したが
鳩山首相が昨年の総選挙さなかに月刊誌に寄稿した論文で東アジア共同体構想を掲げ、この要約記事が米国のニューヨーク・タイムズに掲載されたのを機に、鳩山首相の目指しているのは「脱米入亜」ではないか、という観測が一気に広まった。
首相はその後、機会あるごとに「脱米」の意図はないと懸命に火消しに努めた。政権発足から4カ月近く経って、普天間問題で日米関係はかなり険悪化しているとはいえ、こと東アジア共同体構想に限って言えば、「脱米」の文脈で語られることは少なくなったように思う。
鳩山首相やその取り巻きに独特な日米同盟観があることは昨日の記事で指摘したので、ここでは繰り返さない。筆者の関心は、鳩山政権が東アジア共同体構想に向けて、具体的にどう動くか、という点にある。なぜなら、これこそが自民党政権との違いを表す「リトマス試験紙」だと思うからである。
鳩山首相は年末にインドを訪問して、マンモハン・シン首相との首脳会談で、日印経済連携協定(EPA)交渉を加速させることで合意した。
東アジアは欧州とは違い、政治体制の異なる国で構成されている。ソ連崩壊を機に欧州統合が進んだのに対して、この地域は北朝鮮の核ミサイル脅威、中国の軍事的台頭、台湾問題といった安全保障上の懸念を抱えている。
そのような点を踏まえれば、共同体構想はまず、域内の経済連携を図ることから始めるのが順当である。鳩山首相が、中国を追走する形で経済成長しているインドとのEPA交渉を前進させようとするのも、この流れの一環であり、正しいアプローチと言える。
総論では合意できても、具体的な交渉課題となると
だが、インドとのEPA交渉は、加速させるという「総論」では合意できても、「各論」――具体的な交渉課題の扱いとなると、これは容易ではない。
日印EPA交渉は、自民党政権下の2007年1月から始まった。外交当局レベルでこれまでに10回以上の交渉が持たれたが、「相違点の溝が埋まらず、全く事態打開のめどが立たない」(EPA交渉筋)という。
インド側は、後発医薬品の認可手続きを簡素化することや、関税撤廃品目を積み増すことを求めている。前者もなかなか厄介な問題だが、外務省や経済産業省が「政治家が決断しないととても動かない」と指摘するのが後者――関税撤廃品目の積み増しである。
よく知られているように、WTO(世界貿易機関)の取り決めによって、先進国が2国間のEPAやFTA(自由貿易協定)を結ぶ場合、90%以上の貿易自由化を義務づけられている。日本はこれまでにシンガポール、メキシコ、マレーシアなど11カ国・地域とEPAを締結している。これも、WTOの縛りはいずれも「クリアしている」(外務省幹部)という。