権力継承に向けて着々と準備
総書記は、42年生まれとしても今年で68歳。権力継承に残された時間は決して多くはない。韓国の北朝鮮研究者からは「2012年までに後継者が公式に登場する」との指摘が出ている。
後継問題を基軸に据えて眺めてみれば、北朝鮮の様々な行動は「円滑な権力継承のための環境整備」という点に収斂する。2010年元日の労働新聞などの共同社説で「根本的問題は、朝米間の敵対関係を終息させること」と強調したのは、米国との平和条約の締結などによって、軍事攻撃を受ける不安を取り除き、金体制の安定を実現したい気持ちの表れだ。無益に映る核開発を急ぐのは、米国に対抗する軍事力を保持しなければ対等な立場には立てない、と考えることが理由だ。
金正日総書記の後継として有力視されている三男・ジョンウン氏〔AFPBB News〕
日朝関係でも「北朝鮮は対日国交正常化で巨額の資金を受け取り、経済・社会発展に充てたいと考えている」(日朝関係筋)。2002年の日朝平壌宣言では、「拉致」という言葉が明記されなかった半面、日本による資金供与の部分が具体的だったことからも、それは明らかだ。2012年までに「日本の資金を通じた発展」に道筋を付けたいのが北朝鮮の本音とみてよいだろう。
市場経済の台頭は権力の危機
お忍びで日本にもやってきたことがある長男・正男氏。後継の目は無さそう?〔AFPBB News〕
その流れからすると、デノミの狙いは国内情勢の安定にある。と書くと、首を傾げる向きが少なくないだろう。「タンス預金」は紙屑になるし、商品の新たな価格設定がよく分からず、平壌の多くの商店が営業を見合わせるなど、混沌をもたらしただけとしか思えないからだ。
しかし、北朝鮮当局が懸念するのは住民生活の混乱ではなく、現体制の動揺なのだ。
北朝鮮は2002年7月、「経済管理改善措置」と称してそれまでの闇市場を事実上、認めることになった。経済体制の行き詰まりで国家による食料配給制度を維持できなくなり、市場での取引を認めざるを得なくなったのが実情だ。


