インターネットが普及してきてから、中国政府はネット世論(中国語で「網絡輿情」)には常に気を配っている。近年では中国語で「網絡問政(網絡はネットの意)」なる言葉も生まれた。中央政府や地方政府の役人が直接ネットユーザーと対話し、耳を傾け、迅速に対応する姿勢を示すものだ。

発刊ブームのネット世論に関する書籍

パソコンを操作する警察官

 ことにこの1~2年は「網絡輿情」に関する報告書がネットで書籍で多数出るようになった。

 それはつまり何か事件が起きるたびに中央・地方の政治に対する不満がネットで見えるようになったことの裏返しと言える。

 その背景には「ネット利用率が世界平均を超え」「安価なノンブランド携帯電話でも写真やビデオが撮れて携帯電話向けサイト限定ながら情報発信ができるようになり」「ブログやSNSなど新しいネットコミュニケーションの場が台頭した」など、複数の要因が重なっている。

 振り返れば筆者の記事に関しても「中国の言論統制に風穴開けるネット造語の衝撃 些細な事件も大きな世論となって影響力を持つ」「中国、今年の流行語大賞は『????』 ネット造語の禁止を狙う政府、今年限りの可能性も」といったネット世論の記事を2010年下半期に書いてきた。

 そこで、網絡輿情の本には何が書いてあるのか筆者自身も興味を持ち、それらの本を読み漁ってみた。

対策というより事例を集めてデータ解析すべき段階

 多くの本で「ネットで話題となった事件」が「(ネットユーザーによる草の根の造語や風刺も含めて)どのように話題になっているのか、情報が広がったのか」ということを、物価(食・住)の上昇や食品の安全や医療問題をはじめとした生活に密着した話題から、政府役人の汚職や問題発言に至るまで、様々なケースを挙げて紹介するものとなっている。

書籍「公安機関輿情分析与輿論引導」

 今年年初に発刊された書籍「公安機関輿情分析与輿論引導」によれば、「いかに火のついたネット世論を鎮火させるか」について、現在はまだ様々な案例におけるネット世論の盛り上がりに関して事例を集めデータ解析をすべき段階だと書いてある。

 書籍の何十ページにもわたってリポートの書き方や、一般人もやっているネット閲覧のやり方が記されている。

 同書では「世論対策の専門家を養成する必要がある」と書いてあり、各地域の公安組織の中に世論誘導のプロがいるところは少ないそうだ。

 「公安機関輿情分析与輿論引導」によればネット世論に火がつく原因は公安自身にもあるとする。「公安」「警察」「パトカー」絡みの案件でのネット世論の盛り上がりは、「富豪」「富豪子弟」「公務員」「大学生」と並び、最も読者を呼び寄せやすいキーワードになっている。