秋田県・小坂町は今年度、地方交付税が約10%減少した。「秋田県内ではダントツの減り方」(川口博町長)だと言う。それだけ税収が伸びているのだ。「ようやく今年度から、借金をしたり貯金を取り崩したりしなくても、予算を組めるようになりました。自立した財源を確保できるようになったのです」(以下、同)
何といっても大きいのは法人税の増加である。2005年に約1億1000万円だった町民税(法人)の収入は、2007年度には約3億5000万円にまで増えた。川口町長は、「DOWAグループが小坂町で環境リサイクルという新しい産業を作ってくれたおかげ」と説明する。
DOWAグループは明治時代から小坂鉱山で採鉱を行い、銀、銅、亜鉛、鉛などを製錬する事業を行ってきた(会社設立時の名称は藤田組)。だが1985年のプラザ合意がもたらした急激な円高によって製品価格が大幅に下落。90年代半ばに、小坂鉱山は閉山に追い込まれた。
その代わりにDOWAグループは、旧小坂鉱山の設備や製錬技術を活用する環境リサイクルビジネスに着手した。国内各地から、時には海外から産業廃棄物や汚染土壌を集めて処理・再利用する。「たいていの大企業は宝の山がなくなったらあっという間にいなくなってしまうものです。でもDOWAはこの土地で新しい産業を作り出してくれました」。その事業がここ数年で軌道に乗り、小坂町の税収増につながったのである。
転機となった「世界鉱山サミット」
小坂町で環境リサイクルに取り組んでいるのはDOWAグループだけではない。小坂町は町を挙げて循環型社会の実現に取り組んでいる。
「私自身がもともと農家のせがれだったこともあって、自給自足の生活とか、みんなでいろいろなものを分かち合う生活をすべきだという思いが、子供の時から強かった。そんな思いもあって、1980年の町長就任時から循環型社会のモデルになる町づくりを目指そうと考えていました」
川口町長は就任以来、循環型社会の構築を町の理念として掲げてきた。実際に町が大きく動き出したのは97年からだ。その年の10月に「世界鉱山サミット」を小坂町で開催した。鉱山を擁する都市が今後どうやって活性化していくかを探ろうというもので、世界約30カ国からの参加者があった。このサミットで小坂町は、「先端鉱業技術を資源リサイクル技術に」「美しい地球を未来に残す循環型社会の構築」「環境保全と有効活用によって自然とともに生きる地域振興」といったスローガンを掲げ、町が目指す方向を具体的に示した。
その成果として、現在、進めている事業がいくつかある。まず「菜の花プロジェクト」だ。町内で休耕地となっている田園に菜の花を植える取り組みである。