日本に一時帰国すると、「プチ経済評論家」に出くわすことがある。熱心な勉強の成果であろう、経済やビジネスの状況について博学ぶりを披露してくれる人たちだ。不況の深刻さについて熱心に語る「プチ経済評論家」は、サラリーマンであることが多い。(APP提供以外は写真も筆者撮影)
しかし企業のオーナーや経営者は状況を語らい、不況を嘆くことで満足するわけにいかない。雄弁であるより、生き残るために何かをしなければならない。
AP通信記者とバンカー、かき集めた30万ドルで起業
ニューヨーク市ブルックリンで操業するブルックリン・ブリュワリー社は、1987年に誕生したビール会社。今やニューヨークで最も人気のビール、通称「ブルックリン」の起業物語は不況とともに始まる。「ブラックマンデー」の文字通り前夜にシードマネーを得て、ビジネスをスタートしたのである。
「ブルックリン」の創業者は、AP通信の中東特派員だったスティーブ・ヒンディとケミカル銀行の元バンカー、トム・ポッターだ。主力商品の「ブルックリン・ラガー」のほか、エールやピルスナーを製造・販売している。ブルックリンのウィリアムズバーグ地区にあるビール工場は年8000バレルの生産能力を持ち、今やブルックリン製造業の中心的な存在である。
ビールビジネスの経験が全くない2人による起業劇は、『Beer School』と題した著書に綴られている。序文を寄せたのは、自身も起業家であるブルームバーグ・ニューヨーク市長だ。
同じ起業家とはいえ、ソロモン・ブラザーズから1000万ドルの退職金を得た上、メリルリンチから3000万ドルを調達して金融情報提供業を始めたブルームバーグ氏とは対照的に、スティーブとトムの開業資金は親戚や友人からかき集めた30万ドルだった。
著名デザイナーを口説き落とし、ロゴデザインが誕生
中小企業にとって、資金不足は普遍的な悩みの種である。しかしカネがなければ、限られた中でやっていく方法を考えればよい。
創業を目前に控えた1987年のある日、スティーブは「I ♥ NY」で知られるデザイナーのミルトン・グレイサーにコンタクトを試みた。