ラロッシェルという町に里帰り中の友人から、「ぜひ遊びにおいで」と誘われる。そこは、人口8万人ほどの大西洋岸の海辺の町。パリからは直通のTGVで3時間ほどのところにある。

400年前はカナダ開拓の拠点だった町

ラロッシェルの港の風景

 かつて1度だけ、バスで通り過ぎたことがあるが、ちゃんと地に足を着けて見て回ったことはない。そこで、友人のこの誘いに乗ってみることにした。

 町は海上貿易の要所にあることから、中世の昔には、イギリス、オランダ、スペイン、ポルトガルなどの船が往来し、大変なにぎわいを見せていたという。またカトリックが大半を占めるフランスの中で、プロテスタント勢力が優位を占める都市であったという時代もある。

 さらに、今から400年ほど前にカナダ開拓に乗り出した人々は、まずこの港から船出したという由緒のある町。だから、2度の大戦にも焼け落ちずに残った様々なモニュメントを巡るだけでも、ゆうに一日が過ぎてゆく。そして、私の食いしん坊ぶりを察してか、「牡蠣の養殖場には興味ある?」と、友人は意外な提案をしてきた。

 (そうかぁー)

 ラロッシェルと聞いただけではピンとこなかったけれど、大西洋岸のこの辺りは、ブルターニュ地方と並んで、あるいはもしかしたらそれ以上に重要なフランスの牡蠣の名産地なのだった。

ブルターニュ地方と並ぶ牡蠣の名産地

 翌日、友人の運転する車で、私たちは海岸線を南に下った。この日の一番の目的は、午後に予定されている牡蠣の「水揚げ」なるものと、牡蠣の養殖家を訪ねるというもの。それまでは、海沿いのポイントを気の向くままに寄り道しながら行く。

海辺に点在する「カルレ」

 最初に車を停めたのは、「Carrelet(カルレ)」と呼ぶ小屋が海岸沿いに点在する場所。いずれも簡素な磯釣りのための小屋で、海に張り出すように、いわば高床式の造りになっている。訪れた時はちょうど干潮時で、小屋を支える柱が地面に刺さっている様子がよく見えた。

 潮が満ちてくれば、これがすっかり隠れてしまうだろうことは、柱の下の方がまだ濡れていることから察せられる。人が活動する気配は全くなかったけれども、釣りの要領は簡単に想像できる。

 小屋の脇にある四つ手網を満潮の時に水中に沈めておき、潮が引くとともに網の中に入った魚が残るというなんとも素朴なもの。それはつまり、この辺りの海岸線の満干の差がかなりのものであることを示している。