ドルの下落基調が続いている。それがいつまで続くのか、考えを巡らせる必要がある。

 6日の理事会でオーストラリア準備銀行(RBA)が決定した0.25%利上げを、市場が「世界的な利上げ局面到来の前触れ」と受け止めるようなことはなかった。今回の動きは、国内需要がそもそも強い上に、クレジットバブル崩壊の傷も相対的に浅く、資源国としての強みもしばしば発揮することのできるオーストラリアという国が、グローバルな危機に直面してダウンサイドリスク警戒で大幅に行った利下げの段階的解除を模索し始めたものであり、それをそのまま一般化することはできない。したがって、米国やユーロ圏、日本など、G7メンバーに関する利上げ観測が強まるようなことは、一切起きていない。

 オーストラリアの利上げ転換はむしろ、構造不況の震源地である「米国の弱さ」を浮び上がらせる効果を有した。豪9月の雇用統計が予想比上振れたことが追加的な材料になり、外為市場では豪ドル高が対米ドルで急進行。米ドルは対円や対ユーロなど、その他多くの通貨に対しても、軟調に推移している。政策金利動向の違いを材料にする動きが、再び活発になってきた感がある。また、米ドル相場と逆相関で動く金価格が急騰し、史上最高値を更新中。8日の先物取引では、一時1トロイオンス=1062.70ドルまで上昇した。

 しかし、米連邦準備理事会(FRB)が算出しているドル実効レートを見ると、ドル安の進行度合いは、対主要通貨ベース(1973年3月=100)、新興国を含む広範なベース(Broad;1997年1月=100)、いずれについても、これまでのレンジを逸脱するようなものにはなっていない(FRBのデータは10月2日分まで公表されているが、直近でも結論に変わりはあるまい)。

 対主要通貨ベースのドル実効レートは、2008年5月に70を下回る水準まで下げており、これが過去最低水準。その後、同年9月の「リーマン・ショック」を経て、リスク回避志向の強まりを背景とするドルへの投資資金回帰(リパトリ)が加速し、今年3月には86を超える水準までリバウンドした。そこで米国株がボトムをつけて反発局面に。株価の上昇とともにリスクテイクの動きが徐々に復活し、逃避通貨になっていた米ドルからその他の通貨へと資金が再度流出していった。さらに、米国の超低金利政策が長期化するだろうという見方が浸透する中で、ドルと円のLIBOR3カ月物の水準逆転や、円高容認とも受け取れる藤井裕久財務相の発言なども材料視されて、対円も含めてドル安がさらに進みやすくなったというのが、ドル実効レートの上下動に対する大まかな説明になる。