2009年8月18日、政権交代をかけた総選挙が公示された。8月30日の投開票に向け、各党のマニフェスト(政権公約)をめぐる真夏の「舌戦」がヒートアップする。

 その中にあって、決して触れられることのない政策。それが国債発行管理政策だ。

 日本の財政事情は主要先進国の中で群を抜いて悪化を続け、財務省は2009年度に借換債や財投債も含めると150兆円近い国債発行をこなす必要がある。金融市場にショックを与えないよう、巨額の国債発行を円滑に行わなくてはならない。今こそ永田町は、国債管理政策へのコミットメントを迫られている。

「メタボ」の借金財政、国債発行当局は「沈黙の臓器」

 97歳にして現役の医師、聖路加国際病院の日野原重明理事長。その日野原氏が気鋭の壮年医師として、『人間ドック:もの言わぬ臓器との対話』(中公新書)を世に問うたのは1965年のこと。日頃は黙々と働いてくれる臓器が発するシグナルに耳を傾けようと、同氏はこの本で訴えた。これをきっかけに、高度経済成長を支えた産業戦士たちが1年に1回、人間ドックを受検する習慣が定着したと言われている。

 そして、日本がバブル崩壊後の大不況と累次の経済対策発動に追い込まれていった1995年。水戸迪郎・旭川医科大教授(当時)が『沈黙の臓器と語る』(NHKブックス)を上梓した。

 酷使にも黙々と耐えて働く肝臓の重要性を分かり易く説きながら、一旦不調となった時の恐ろしさや、それを労わることの大切さを訴えた。この本の出版以来、「沈黙の臓器」の健康に世間の耳目が集まり、「週に1度の休肝日」といった表現が人口に膾炙するようになったようだ。

 では、日本の財政状況を人間の身体に喩えたらどうだろう。2009年度予算の一般会計歳出は、補正予算を含むベースで102.5兆円。これに対し、46.1兆円の税収を含む歳入は58.4兆円。だから差し引き44.1兆円の帳尻は、新規国債の発行に頼らなければならない。財務省が発表した2009年6月末の国債及び国の借入金残高は860兆円に達し、史上最高を更新している。

 さしずめ積年の肥満体質の改善を迫られつつも、ダイエットを全く実践できない、「メタボおじさん」と言ったところか。となると、借換債や財投債も含めて2009年度に149.2兆円もの国債発行を迫られる財務省理財局は、「国の借金のツケ」の消化と代謝を黙々と行う「沈黙の臓器」と言えよう。

2009年6月末の国債・借入金残高

(単位:億円)
区分 金額 前期末(前年度末)に対する増減(△)
内国債 6,844,407 39,925
  普通国債 5,544,241 84,885
  長期国債(10年以上) 3,584,994 42,616
中期国債(2年から5年) 1,640,480 30,297
短期国債(1年以下) 318,767 11,973
財政投融資特別会計国債 1,270,400 △40,102
  長期国債(10年以上) 953,233 5,861
中期国債(2年から5年) 317,167 △45,963
交付国債 4,590 △676
出資・拠出国債 17,923 △4,182
日本高速道路保有・債務返済機構債券承継国債 7,254 -
借入金 567,087 △8,574
  長期(1年超) 219,687 △2,832
短期(1年以下) 347,400 △5,742
政府短期証券 1,191,062 106,236
合計 8,602,557 137,587

出所:財務省