「本流トヨタ方式の土台にある哲学」について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」という4項目に分けて説明しています。

 「(その1)人間性尊重」の哲学には、次の8カ条があります。

(1)ありのままを受け入れ、持っている能力を引き出し、存分に発揮してもらう
(2)会社都合で従業員を解雇しない
(3)家族の応援と職場のチームワークが活力の源
(4)人を責めずにやり方を攻めよ
(5)異動は一番優秀な人から
(6)3年経ったらサボれ
(7)偉い人が言ったから正しいのではない。正しいことを言った人が偉いのだ
(8)最後に決断を下し、全責任を取るのが上司の役目

 これまでに、この中の(1)と(2)について話をしました。 今回は「(3)家族の応援と職場のチームワークが活力の源」についてお話ししましょう。

「生産」と「消費」の部分に分離されてしまった家族

 21世紀の今日において、会社での活動になぜ「家族」の話が出てくるのか、不思議に思う人が多いかもしれません。でも、自分の心の奥底を覗いてみて下さい。そこには家族の笑顔があることでしょう。うれしい時は共に喜び、苦しい時はその苦しみを分かち合う家族、心が響き合う家族がいるからこそ、意欲的に生きていけるのだと思います。

 なぜ人には家族が必要なのでしょうか。人類の歴史をたどってみますと、猿と同じ祖先を持つと言われる人類が進化して、現代人(クロマニヨン人)となった約4万年前から現代に至るまで、人類は常に家族単位で生きてきました。

 しかしその家族としての生活環境は、産業革命以来、大きな変化を遂げました。それは次のような変化です。

 常に一緒に1日を過ごし、一緒に「生活」していた家族が、
(A)個人で工場に勤め、賃金をもらう「生産」の部分と、
(B)身を寄せていたわり合い、子供を産み育てる「消費」の部分に、
時間的にも空間的に分離してしまった、ということです。

 「人」と「間」という漢字の組み合わせが示しているように、人間は、常に苦難を分かち合い、喜びを共にするパートナーを必要としています。すると、上記の「(A)個人で工場に勤め、賃金をもらう『生産』の部分」にも、家族に代わる仲間がいないと、働く個人としての力を存分に発揮できないことになります。この部分を「職場のチームワーク」という言葉で表しているのです。

「工場制工業」が家族を大きく変えた

 その生活環境と家族の関係を、以下で歴史的にもう少し詳しく考えてみましょう。

<1> 狩猟採取生活(約4万年前~)

 現代人の直接の祖先と言われるクロマニヨン人は約4万年前に、複数の家族単位からなる群れで生活していました。獲物を求めて転々と移動し、狩猟は男、採取は女と分業しながら、取れた獲物をみんなで公平に分かち合うという原始共産的自給自足生活をしていたとされています。

 生きていくための技術・技能は親から子へ伝承され、外敵には、家族だけなく群れとして共に戦い、勝利は共に祝い、死は共に悼んだといいます。