日本が戦後、奇跡的な復興と経済成長を成し遂げられたのは、誰もが「頑張れば必ず明日はよくなる」と信じ、がむしゃらに働いてきたからである。

 しかし、右肩上がりの成長の時代は過去のものとなった。ここに来て日本人は、「どうやら明日が必ずよくなるわけでもないらしい」と気づきつつある。

 その一方で日本人の長寿化はますます進み、いまや人生80年時代。定年後の長い「余生」を目の前にして、多くの人が「さて、どうしたものか」と途方に暮れている。

 本書のタイトル『今日よりよい明日はない』は、筆者の玉村豊男氏がポルトガルのホテルで21歳の若いホテルマンから聞いた言葉だという。成熟した社会の生き方を示すものとして、玉村氏はこの言葉を提示する。その真意は一体どこにあるのか。

「今、自分の目の前にある状況がベストである」

──私たちは、いろいろな強迫観念の中で暮らしています。典型的なのが、「日々進歩しなければならない」「もっと豊かにならなければならない」というもの。この本は、そうした強迫観念からもっと自由になりなさい、というメッセージだと受け取れました。

玉村 日本人は終戦の時代からスタートして、目覚ましい復興を遂げ、右肩上がりの成長を続けてきました。その間ずっと「もっと頑張ればもっと豊かになれる」「もっと先へ行くことができる」と信じていたわけです。それは、「進歩しなければならない」という、ある種の強迫観念に急き立てられていたのかもしれません。

玉村豊男氏/前田せいめい撮影玉村 豊男(たまむら・とよお)
1945年東京生まれ。東京大学仏文科卒業。在学中にパリ大学言語学研究所に留学。『パリ 旅の雑学ノート』『料理の四面体』をはじめ、精力的に執筆活動を続ける。長野県東御市に「ヴィラデスト・ガーデンファーム・アンド・ワイナリー」を開設、2007年、箱根に「玉村豊男ライフアートミュージアム」開館。ワイナリーオーナー、画家としても活躍中。(写真:前田せいめい)

 でも、今となってはもう右肩上がりの経済成長は望めません。それは悪いことではなくて、進歩を追い求める必要のない、成熟した社会になったということです。

 それにもかかわらず、いまだに「明日はもっとよくなる」ことを前提とした経済モデル、成長モデルがすべてだと思っている人が多い。特に団塊の世代をはじめとする50代、60代の人たちがそう思いこんで、まだ走り続けていますよね。

 逆に、若い人なんかは最初から豊かな時代に生まれたので、それほどの欲望を持っていないでしょう。車だって買わないし、服だってそんなに高くないものを買って、自分らしく着られればいいと思っている。

 だから若い人を見習えというわけじゃないんだけど、今なお「頑張って、もっと明日をよくしなければ」と考えている人に、「今、自分の目の前にある状況がベストである」と考えてみることを勧めたいんです。

──明日を追い求めないというのは、「あきらめる」こととは違うんでしょうか。

玉村 自分に与えられているものを、いやいや納得するのが「あきらめる」ということ。これしか与えられていないけど仕方がないという「我慢」ですよね。

 そうじゃなくて、今、与えられているものを最大限に利用してみようということです。自分で主体的に選び直して、掴み直す。それはあきらめることじゃないんです。