この本で言う「ブラック・スワン(黒い白鳥)」とは、そんなことが起こるとは“あり得ない”、普通に考えられる範囲の外側にあった事象のこと。古くは、キリスト教が世界宗教になるなど、キリストと同時代の人々は、誰も予想しなかった。
世界では常に予想外の出来事が起こる
サラエボ事件、ヒトラーの台頭、ソビエト連邦の崩壊、インターネット。グーグルの登場や、2001年に発生した9.11世界同時多発テロも、黒い白鳥=予想外の出来事=と言える。
黒い白鳥は日常の傍らにあるのだが、実際に起こるまで私たちが気づかないのはなぜか? この本は、人間が重要な事態をなぜ予測できないかを解き明かし、先が見えない世界にいかに順応していくかを書いたエッセイ。2007年4月に刊行された原著は爆発的に読まれ、全米で150万部以上の大ヒットを記録している。
両親ともギリシャ・シリア系の著者は、レバノンに生まれた。長らく多民族が平和的に共存していたレバノンに内戦が起きたのは、著者が10代の時。亡命し、22歳でペンシルベニア大学ウォートン・スクールに入った著者は、MBAを取得してトレーダーになる。
レバノン内戦と、ウォートン・スクール修了後の1987年に起きた史上最大の株価の暴落は、著者が「黒い白鳥問題」に取り憑かれる機縁になった。私たちは先が見えないが、黒い白鳥に対して慌てふためくばかりなのか。何か処方箋があるのではないか?
本書はエッセイであって、少し茶化すような散文に初めは反感を覚えるかもしれない。プラトンやラッセルといった大哲学者を俎上に挙げてもいる。10代の頃、哲学者になりたいと漠然と思っていた著者は、内戦の勃発やビジネスの現場で「不確実性」を経験し、実際の問題に立ち向かう際に役に立つアドバイスをくれるかという点で、少なくない哲学者や、その道の専門家に懐疑的な目を向けるようになったようだ。