またこの季節がやって来た。「Paris Plage(パリ・プラージュ=パリ海岸)」。パリのセーヌ河沿いを海岸に見立てるという、夏恒例のイベントである。

 普段は自動車専用道として使われているセーヌの岸辺のうち、ルーブル美術館にも近い芸術橋からシュリー橋までの間、つまりシテ島、サンルイ島を対岸に望む、いわばパリのまん真ん中の区域が対象になる。7月下旬から8月下旬までのほぼ1カ月間、この区域は自動車の通行が封鎖され、ビーチパラソルが並ぶにわか海岸になるという趣向だ。

パリに倣ってベルリンやブリュッセルでも

 現在の社会党系のパリ市長、ベルトラン・ドラヌエ氏が就任してから始まったこの試み。スタートは2002年だから、今年で8回目になるが、彼の手がけた仕事の中でも最も成功したことの1つに数えられるくらい、それは年々規模を増し、すっかり定着した感がある。フランスの地方都市だけでなく、ベルリンやブリュッセルなどもこれに倣ったイベントを始めたというくらいだから、その評判のほどがうかがえるだろう。

 海岸と言うからには、砂浜もちゃんとある。しっとりサラサラの海の砂が運び込まれ、海の家風の売店やアイスクリームスタンドが立ち、たくさんのデッキチェアやパラソルが広がる光景は、いつもは車がビュンビュン行き交う道路であることを忘れそうになるくらいに、実に念のいった本格的な御膳立てだ。

 ところで個人的に言えば、私はこのイベントに好意的ではなかった。パリの景観というものは、歴史的な厚みが感じられるからこそ魅力があると思っている。

 マリー・アントワネットが断頭台にかけられるまで幽閉されていたというコンシェルジェリーの建物や、何度改修されても、昔ながらの美しさを再現してみせるセーヌに架かる橋など、歴史的モニュメントのパノラマのようなパリの心臓部に、にわか作りの張りぼてが陣取る風景にはどうも違和感を覚えるというのが正直なところ。

 また、私がそう思っているということを抜きにしても、友人たちの間でパリ・プラージュに行こうという話は聞かない。つまり、パリっ子の中でも、この試みを軽薄と感じている向きは少なくないというのもまた事実。仕組まれたお祭りには、そう簡単に乗らないという彼らの性質が反映されているかもしれない。