麻生首相は24日、北京で胡錦濤国家主席、温家宝首相と個別に会談した後、「ドル体制の崩壊を望んでいる人はいない。急激な変化が日中双方の国益に資することはない」と述べた。この発言を。「日中首脳ドル基軸維持で一致」といった見出しで複数のメディアが報じた(10月25日付 東京新聞、産経新聞、10月24日付 時事通信)。
確認になるが、為替相場は現在、「円高局面」であると同時に「ドル高局面」である。主要3通貨について言えば、「円、ドル、ユーロ」が強さの序列になっている。ただしこれは、円やドルに積極的な買い材料があるというわけでは決してない。これまでファンディング(資金調達)通貨だった円やドルに、世界中から資金が回帰しているという、需給上の要因が大きい。
しかし一方、議会を通った最大7000億ドル規模の金融安定化策を米政府が実行に移していく中で、米国債の大量増発から需給が悪化して長期金利が上昇ないし下げ渋り、米国ひいては世界の景気回復を阻害するリスクを懸念する向きもある。24日の米債券市場で30年物国債利回りが一時3.86%まで低下し、77年定期発行開始以降の最低水準を更新していたことから見て、そうした心配は今のところ、そう大きくない。
だが、2009会計年度の米財政赤字が1兆ドルに上るという予想が出ており、3年債発行復活を含む各年限の増発が避けられそうにない上に、プライマリーディーラーの数が減っていることも不安材料。28日の米債券市場では、ライアン米財務次官代行(国内金融担当)の、2009会計年度の所要借入額が「空前の規模」に達するとの発言を嫌気し、需給悪化懸念から長期・超長期債が売られた。
そうした状況下、一種のコンティンジェンシープランとして、米国債の需給を引き締めるための方策を、米政府あるいは外貨準備高が多い国の当局者が頭に描いていても不思議ではない。
10月5日、香港の新聞である明報は、中国政府が米国の金融安定化措置を支援するため、新たに2000億ドルの米国債を買い入れると報じた。第1段階として700億~800億ドルを購入する予定で、この方針をすでに米国側に伝えた、という具体的な内容である(10月5日付 時事通信)。日本のメディアでも、毎日新聞がこの話を大きく取り上げた(10月7日付 毎日新聞)。しかし、中国の銀行業監督管理委員会(CBRC)は7日までにこの報道を否定(10月7日付 ダウ・ジョーンズ=共同通信)。話としてはいったん立ち消えになった。
一方、日本が米国債の買い支えに動くつもりがあるのか、という点について、麻生首相は10月16日の参院予算委員会で、「(米国の公的資金注入の財源について)今の段階で米国から(負担の)要請はない。この段階で直ちにやるべきは米政府の仕事」「日本が75兆円の一部を負担する気はない」「(要請があれば検討するのかとの問いに)日本に金融危機がどの程度影響するかだ。それによって、やらざるを得ないところまでクチャクチャになった場合は考えなければいけないかもしれない」と述べ、7000億ドル分については日本が負担する気はないとしながらも、金融情勢次第では将来負担する可能性を排除しない答弁を行っていた。