「日本の自動車産業が、ものづくりの『元気』を取り戻すために」をメーカー別に考えてゆこうという話がまだ途中なのだが、それをいったんペンディングにして、「日本にとって『喫緊の』課題」を取り上げたいと思う。
それほど「急を要する」テーマとは何か。「脱原発」である。いや、そんな安直なフレーズで語れるような「浅い」問題ではない。「今日、原発をどうするか」を考え、道筋を組み立てるためには、「これから日本は国全体として電力をどう作り、どう使ってゆくのか」、つまり電気エネルギーの供給と消費の「グランドデザイン」がその前提になければならない。それを組み立てることこそが「喫緊の課題」なのである。発電所をどうするかも、法律をどう変えたり作ったりしてゆくかも、個別の論争ではなくこの「グランドデザイン」あってこそのものだ。
原発は徐々に排除していくしかない
まず始めに言っておくこととして、私はずっと「原発反対」である。正確に言えば、日本は、そして人類は、「核分裂熱発電」には依存すべきでないと考えてきた。しかし今日、我々が生きているのは科学技術文明の真っ只中であり、その中身を考える時には現実主義に徹するしかない。
つまり、今この時点における私のスタンスは「核分裂熱発電とはもうしばらく付き合いながら、徐々に排除してゆくしかない」というものである。同時に、新しいエネルギー供給形態を組み立ててゆかなければ、それも絵に描いた餅でしかない。そしてこのエネルギーシフトは、今、多少なりとも妥当に思えるグランドデザインを描いたとしても10年単位の時間を費やさねば実現できない。
実は私自身とその周辺では、数年前から、日本の電力供給・消費システムと、それも含めたエネルギー施策全体を見直し、再構成を進めることを考える小さなチームが形づくられている。資源、とりわけエネルギー源のほぼ全てを輸入に頼る「持たざる国」として、このまま過ごしてゆけば、遠からず深刻な壁にぶつかる。つまりエネルギー危機に直面する。その可能性は刻々と忍び寄りつつある。そうなる前にエネルギー需給体制を変化させてゆかなければならない。そう考えて様々な検討と議論を繰り返し、ある明確な「社会的デザイン」が見えてくるところまで来ていた。しかし、つい数カ月前までは、その重要さを理解して耳を傾ける人、組織はなかなかいなかったのが実情である。
まさにそこへ今回の東日本大震災である。東北から関東までの電力供給システムが甚大なダメージを負い、何より福島第一原発事故が出来した。そこで「今、起こっていること、起こりつつあること」、そして「次はどうすればいいのだろう?」については、この「次世代エネルギーバランス研究」によって多少なりとも「予習」をしていたことになり、いささか踏み込んでお話しすることができるかと思う。