サブプライム問題に端を発したグローバル金融危機への対応が後手に回り、米国内では証券取引委員会(SEC)が批判を一身に浴びた感がある。
そのSECが、途上国政府の公務員が絡む贈賄事件の摘発に積極的な姿勢をにわかに見せ始めた。国内の金融監督の失敗は外国企業の脱税や贈賄の立件で挽回してやる、と言わんばかりだ。司法省ともスクラムを組み、さらには証券監督者国際機構(IOSCO)の多国間情報交換枠組みを活用。米国以外の証券当局とも国際贈賄事件の摘発をめぐり、積極的に連携していく方針だという。
「不正がグローバルに行われるのなら、規制当局も法を執行するためにグローバルにいくということだ」
ヒスパニック系の敏腕弁護士として米国南部ジョージア州を中心にその名を轟かし、2008年7月からSEC委員を務めるルイス・アギーラー氏。故郷に錦を飾る形で、2009年5月にアトランタ市で開かれた「第3回不正・法廷会計教育会議」で演説した。この一句でスピーチが結ばれると、会場は万雷の拍手で包まれた。
確かに、2008年9月のリーマン・ショック以降、米国の普通の市民(「米国のありふれた町の中心にある、ありふれた通りの住人」という意味で「メインストリートの人々」と呼ばれる)がSECに浴びせる視線は、突き刺さるように厳しくなった。
今回の金融危機の元凶となったヘッジファンドや、投資銀行の証券化商品への暴走的な投資行動を、SECは止められなかった。ガイトナー財務長官が中心となって検討中の金融監督の包括的見直しでは、SECが行っていた大手投資銀行に対する監督権限が、少なくともマクロ健全性規制については連邦準備制度理事会(FRB)に一元化される可能性が大きい。
マドフ巨額詐欺事件、手緩い調査が発覚
法執行の分野でも、SECの失態が浮き彫りになった。
2008年12月には、ナスダック・ストック・マーケットのバーナード・マドフ元会長が、ユダヤ系富裕層を中心に500億ドルを超える詐欺スキームに手を染めていたことが発覚。SECはその端緒をつかんでいながら、マドフ元会長の経営する投資会社に十分な捜査を行っていなかった事実が発覚した。
このマドフ事件では、SECの手緩い調査が米議会公聴会で繰り返し糾弾された。連邦議会議員の批判の矢面に立たされ、リンダ・チャトマン・トムスンSEC捜査局長は2009年2月に辞任を余儀なくされた。スタッフの入れ替わりが激しいSECで14年間も在勤し、トムスン氏は「SEC捜査局の主」と呼ばれていたのだが。
後任に選ばれたのが、連邦検察当局ニューヨーク南部事務所の検察官を11年間務めたロバート・クザミ氏。「ポンジー・スキーム」の名で知られる、ネズミ講的な投資勧誘詐欺の摘発で名を挙げた男だ。ニューヨーク・マンハッタンで3年にわたり、証券化商品の不正摘発のための特別作業班を率いていた。
また、1993年のニューヨーク・ワールドトレードセンター爆破事件では、主犯のエジプト系イスラム過激派を起訴に持ち込むなど、バリバリの「武闘派」なのだ。