「日銀はTOKYO連銀に成り下がる」――。米国がこのまま財政拡大路線を突き進んだ場合の日本の金融政策への影響を考えてみると、なんとも、薄気味悪い未来予想図が出来上がる。

中国高官ら、米国債の増大とドル投資に懸念 米議員報告

いつまで「強いドル」路線を堅持できる?〔AFPBB News

 財政赤字拡大と超緩和的な金融政策は通貨を下落させやすい。リーマン・ショック以降の米国は、まさにこの路線を突き進んできた。現状においては、米国は「強いドル」政策を堅持しているが、景気テコ入れにドル安を利用する可能性は否定できない。

 恐らく日銀はドル安・円高に対応するための金融緩和を余儀なくされ、結果的に米国への隷属が強まると予想される。米国にとっては連邦準備制度理事会(FRB)傘下の地区連銀が1つ増えるようなものだ。

それでもドル安は進行する!?

 米政府の通貨政策について、市場関係者は「表立ってドル安容認に転換する可能性は小さい」(外資系証券エコノミスト)とみている。米国債を大量保有する中国などのドル離れを招く恐れがあるためだ。

 ドルの減価が見込まれると、海外勢は米国債購入を手控える。そうなると米市場金利は上昇し、景気に悪影響が及ぶ。国債を大量発行する米国にとっては「海外投資家は買い手として従来以上に重要な存在で、金融当局はドルの安定に務めるしかない」(同)わけだ。

 ただ、それでもドル安が進行する可能性はなお高い。米政府が通貨安定に努めても、金融財政の放漫ぶりが通貨不信を招く恐れがある。また、金融財政政策が手詰まりとなれば、ドル安に頼るしか選択肢がない。

ノーベル経済学賞のクルーグマン教授、金融危機に警戒感

ドル安歓迎! (ノーベル賞受賞のクルーグマン氏)〔AFPBB News

 実際、ノーベル経済学賞を受賞した米プリンストン大学のクルーグマン教授は5月15日、ニューヨーク・タイムズ紙のコラム(ブログ)で、「弱いドルは(デフレに直面する)米国の輸出にはプラスだ」と通貨安を歓迎する考えを示してもいる。

 ドル安は日本にとっては「円高」を意味する。日銀は為替動向を金融政策の直接的な目標にしていないが、そのマクロ的な影響には対応する義務がある。円高が景気を悪化させ、物価を下押しすれば「物価安定を通じた持続的成長」のために金融緩和に踏み切る必要があるのだ。仮に米政府がドル安を容認すれば、円高圧力が軽減するまで金融緩和を推進していくことになろう。

外為特会経由でドル安をサポート

 問題は、その過程における日銀バランスシート(B/S)の変化だ。緩和策としては、リスク資産を買い入れる「質的緩和」や「量的緩和の復活」が選択肢となるが、いずれにしても、B/Sは膨張する。

 FRBが現在のB/S膨張と通貨安を巧妙に結びつける意思をちらつかせれば、米国に従順な外為市場は敏感に反応し、ドル売りを進める。対抗して日銀が金融緩和に動けばB/Sが膨らむ。つまり、両中銀のB/Sは為替を介して米国主導で連動性を高め、日銀は隷属を強いられてしまう。

 B/Sの質的変化に目を向けると、日銀は間接的または直接的に米国財政を支援する格好にもなる。メカニズムは次の通りだ。